風向きがプレイグラウンドを決める
マリンスポーツにおいて、「風向き」は単に風が吹いてくる方角を示すだけのものではない。風向きは、ゲレンデの波の形を作り、水面をフラットにし、あるいはスリリングなジャンプ台(キッカー)を生み出す。その日、海がどのようなプレイグラウンドになるか、そしてどのライディングスタイルに最適かは、すべて風向きにかかっている。
本稿では、基本となる3つの風向きごとに、安全性や適したスタイル、カイトの操作方法、そしてプロも魅了する世界の有名ゲレンデを紹介する。
1. サイド・オンショア / オンショア
すべてのライダーに愛される安全な王道の風である。海から陸に向かって真っ直ぐ(オン)、あるいは斜め(サイドオン)に吹き込む風を指す。
安全性と特徴
万が一機材トラブルが起きたり風が抜けたりしても、風と波が自然とビーチへ押し戻してくれるため、安全性は最も高い。波が風に押されて適度なキッカー(ジャンプ台)を形成するため、波に向かってアプローチし、空高く飛び上がるビッグエアに最適である。
ウェーブ・ライディングにおいては、海面は荒れ気味(チョッピー)になり、波は急激に切り立つ前に崩れやすくなる。この条件での波乗りは実質的にダウンウィンド(風下)へ向かって滑ることになる。ラインテンションを保つため、ボードよりも先にカイトを積極的に動かすのがコツである。ボトムターンの前にカイトを上げ、トップターンの前にカイトを振り下ろすなど、アグレッシブな操作が求められる。
代表的なゲレンデ
南アフリカのケープタウン(カイト・ビーチやビッグ・ベイなど)は、夏に吹く「ケープ・ドクター」と呼ばれる強烈なサイド・オンショアが、巨大な波のキッカーを生み出す。世界最高峰のビッグエア大会『Red Bull King of the Air』の舞台としても有名である。また、カーボベルデのカイト・ビーチも、安定したサイド・オンショアが吹き、あらゆるレベルのライダーが楽しめるスポットである。
2. サイドショア / クロスショア
波乗りの魅力を最大限に引き出す理想的な風である。海岸線に対して完全に平行(真横)に吹く風を指す。
安全性と特徴
海岸線に沿って往復できるため安全性が高く、アップウィンド(風上)も取りやすい。ただし、ウェーブ・ライディングにおいて、アウトサイド(沖)で波のセットを待機している時や、波に乗って岸側へ長く下った後などは注意が必要である。波待ちで停滞している間も、風や潮の流れによって風下へ流されやすいため、元のポジションに戻るための確実なアップウィンド能力が求められる。
ウェーブ・ライディングにおいて最も理想的とされる風向きであり、波に対して並行にアプローチでき、波のフェイス(斜面)に合わせてダウン・ザ・ラインをスムーズに描ける。ボトムターンでカイトを上げ、トップターンで下げることで、サーフィンのように流れるようなカービングが可能になる。
代表的なゲレンデ
モロッコのダフラ・ウェストポイントは、砂漠のすぐそばで安定したサイドショアが吹き、極上の波乗りとラグーンでのフラットウォーターの両方が楽しめる。ペルーのパカスマヨは、「1つの波で15回もターンができる」と言われるほど、どこまでも続くエンドレスな波(レフトハンダー)に乗れる名スポットである。
3. オフショア / サイド・オフショア
リスクの先にある究極のコンディションである。陸から海に向かって真っ直ぐ(オフ)、または斜め(サイドオフ)に吹き抜ける風を指す。
安全性と特徴
初心者は絶対に出艇してはならない。トラブルが起きればそのまま外洋へ流されてしまうため、ジェットスキーのパトロールやレスキューボートといった確実なバックアップ体制が完備されていることが絶対条件となる。また、陸の障害物(建物や地形)の影響で、岸際は強烈な突風(ガスト)になりがちである。
極めてリスキーな反面、条件が揃えば特定のスタイルにとって最高の舞台となる。オフショアの風は波が崩れるのを遅らせるため、海面が滑らかに整い、ホローな(切り立ったチューブ状の)波を形成する。カイト操作はオンショアとは逆に、余計な操作をせず45度付近で安定させるのが基本である。動かしすぎると波の裏側へ引き剥がされるため、バーの押し引きだけでパワーを調整するエキスパートの技術が要求される。
また、陸から風が吹くため、岸のすぐ裏は波が立たず鏡のようにフラットになる。この水面と強烈なオフショアが組み合わさると、極限のエッジングが可能になり、信じられない高さのジャンプからメガループを繰り出すことができる。
代表的なゲレンデ
モーリシャスのワン・アイは、アウトリーフで割れる超高速の波とサイドオフの風が相まって、極上のチューブを巻く。カーボベルデのポンタ・プレタは、世界のトッププロが究極の波乗りを披露する伝説の場所である。ビッグエアの舞台としては、スペインのバルネアリオ(タリファ)や、フランスのパルク・デ・ドス(バルカレス)などが、強烈なオフショアの聖地として知られている。
まとめ
風向きは同じ海を、安全なジャンプの練習場にも、極上のウェーブ・プレイグラウンドにも、そして自己ベストを更新する極限のフラットウォーターにも変えてしまう。新しいゲレンデを訪れる際は、ただ風速を見るだけでなく、自分の目指すスタイルに対してそのスポットの地形と風向きがどう交差するかをローカルライダーから学び、確実な安全対策をした上で最高のセッションを楽しんでほしい。
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