概要
「本当に素晴らしいよ。私がここへ来て大会を開催してきた中でも、間違いなく過去最高のダフラだと言えるね。」
2022年9月27日から10月2日にかけて、モロッコ(西サハラ)のダフラ(Dakhla)で開催された『2022 GKA Kite-Surf World Cup Dakhla』。2022年のQatar Airways GKA Kite-Surfワールドツアー(全2戦)の開幕戦であり、世界15カ国から41名のトップウェーブ・ライダーが集結した。前年大会では微風と日没の暗闇に悩まされたウェストポイント(Westpoint)だったが、2022年は開幕初日から3〜4フィートの極上のうねりと20〜30ノットの強風が噛み合い、3日間連続で本戦ヒートを一気に消化。「過去最高のダフラ」と称される歴史的なグッドコンディションのもとで、シーズン王座に向けた熱い戦いが繰り広げられた。
開催地とコンディション
会場となったダフラ半島の「フム・エル・ウエド(Foum El Oued/通称:ウェストポイント)」は、Westpoint Dakhlaホテルのすぐ眼前に広がるワールドクラスのライトハンド・ポイント・ブレイクである。
前年(2021年)は風が弱く、1本乗るごとに砂浜を走って風上へ戻る過酷な持久戦となったが、2022年はシーズン最初の本格的な北大西洋スウェルがタイミングよく到達。周期12〜13秒・サイズ3〜4フィート(頭〜オーバーヘッド)の長く規則正しいライトハンダーがポイントからインサイドまで幾重にも割れ、そこにサイド〜サイド・オフショアの安定した風が吹き込む理想的なウェーブアリーナが出現した。
特に潮が満ちてくる午後(ハイタイド前後)には、アウトサイドの切り立ったウォールとインサイドの掘れ上がるセクションが見事に繋がり、選手たちは7平米から11平米のカイトを駆使してロングライドとバーティカルなリップアクションを連発した。
フォーマットと出場選手
競技は1ヒート18分間〜20分間、最大10ウェーブのうち上位2本のウェーブスコア合算(20点満点)で争われる「100% Pure Wave(純粋な波乗りのみ)」フォーマットが採用された。
採点においては、波の最もクリティカルなセクションでのバーティカルなターン、スピードの維持、そしてカイトのパワーに頼らず波のポケットを最大限に使い切るサーフィン本来のフローが重視された。また、ラウンド1で1位となった選手はラウンド3へ直行し、ラウンド4以降はすべて1対1のマンオンマン・ノックアウト方式で実施された。
男子部門には、前年にこのダフラの地で初の年間王者に輝いたオーストラリアのディフェンディングチャンピオンジェームズ・カルーをはじめ、長年トレードマークだったドレッドヘアをバッサリ切って心機一転臨んだ前年大会覇者アイルトン・コッツォリーノ、2016年世界王者マチュ・ロペス、カナダのベテランリース・マイヤーズコウ、そしてセバスチャン・リベイロ、ペドロ・マトス、アーター・モレイス(4度のブラジル・カイトウェーブ王者)、ガブリエル・ベネトンといった強力なブラジル勢が集結。さらに開催国モロッコからは、事前予選を勝ち抜いたローカルライダーたちが本戦に挑んだ。
女子部門には、6月のタリファで初のビッグエア世界女王に輝き、前年ダフラ大会では日没による「共同優勝」に終わっていた16歳のカプシン・デラノワとブラジルのマルセラ・ヴィット、1年間の休養からツアー復帰を果たしたスウェーデンのヨハンナ・カタリーナ・エディン、カナダのフランシス・ケリー、スイスのカミユ・ロゼランド、そしてブラジルの新星ケジアネ・ロドリゲスらが名を連ねた。
ハイライト・名勝負
1. ブラジル勢の爆発と、アイルトン・コッツォリーノ対 甥っ子ヘンドリック・ロペスの初対決
競技初日・2日目の主役となったのは、サーフィン大国ブラジルの選手たちであった。
6歳からサーフィンを始めた生粋のサーファーであるセバスチャン・リベイロは、ラウンド3でアーター・モレイスを下すと、ラウンド5(1対1のベスト16)ではイタリアのヤリス・デロウモを相手に「9.57点」と「9.00点」という2本の9点台(トータル18.57点)を叩き出し、他の追随を許さない圧倒的なフロントサイド・カービングを見せつけた。
また、女子ラウンド3ではブラジルのケジアネ・ロドリゲスが2本の波で「15.73点」という女子最高ヒートスコアをマークし、パワフルなターンで一躍優勝候補に名乗りを上げた。
一方、男子ラウンド3では、絶対王者アイルトン・コッツォリーノと、その甥っ子であるカーボベルデの若手ヘンドリック・ロペスによる叔父・甥対決が実現。ヒート中最高シングルスコアを記録した叔父のアイルトン・コッツォリーノが貫禄を見せて1位通過を果たした。
「今日は甥っ子と最高のヒートを戦うことができたよ。ツアーで彼と対戦するのはこれが初めてだったんだ!もちろん彼に勝たせるわけにはいかなかったよ、もしここで負けたら一生『あんたに勝ったぞ!』って言われ続けるからね。だからチャンスは一切与えなかったよ。」
—アイルトン・コッツォリーノ
2. ローカルヒーローモハメド・アリ・ベッキャーリの快進撃と、準々決勝のビッグマッチ
今大会最大のサプライズとなったのが、ウェストポイントを知り尽くすモロッコのローカルライダー、モハメド・アリ・ベッキャーリの快進撃であった。
ラウンド4から勝ち上がったモハメド・アリ・ベッキャーリは、ラウンド5で後に2024年のKite-Surf世界王者となるブラジルの新星ガブリエル・ベネトンと対戦。9平米のカイトにサイズダウンして自由自在なボードコントロールを手にしたモハメド・アリ・ベッキャーリは、インサイドまで繋がる波を見極めてフローのあるフロントサイドターンを連発し、ガブリエル・ベネトンを撃破。さらに翌日の準々決勝でもブラジルの強豪ペドロ・マトスを破り、母国モロッコの大観衆の前で堂々のベスト4(準決勝)進出を果たした。
そして男子準々決勝で最大の注目を集めたカードが、セバスチャン・リベイロ対アイルトン・コッツォリーノの頂上決戦であった。セットの波がなかなか入らない緊迫した展開の中、数少ないグッドウェーブを確実に捉えて機械のように正確なセクション刻みを見せたセバスチャン・リベイロが前年覇者アイルトン・コッツォリーノを下し、準決勝へと駒を進めた。また、別ブロックの準々決勝ではマチュ・ロペスがリース・マイヤーズコウを、現世界王者のジェームズ・カルーが南アフリカのマット・マックスウェルを下し、ベスト4が出揃った。
3. 女子準々決勝の番狂わせと準決勝
最終日(Day 3)の朝から始まった女子準々決勝では、この日が自身の誕生日であったカナダのフランシス・ケリーが、前日に最高得点を叩き出していた優勝候補ケジアネ・ロドリゲスを撃破する番狂わせを演じた。さらにツアー初出場のフランス人ルーキーゾーイ・バジユも、前年共同優勝者のマルセラ・ヴィットを破ってベスト4へ進出。
続く女子準決勝では、ヒート1でフランシス・ケリーがヨハンナ・カタリーナ・エディンを破り、2019年の初参戦以来目標としてきた初のファイナル進出を達成。ヒート2ではカプシン・デラノワが同胞のルーキーゾーイ・バジユとのフランス人対決を制し、前年に続く2年連続のダフラ決勝へと進出した。
大会の詳細結果を表示(ネタバレ注意)
「この大会で優勝できたことは私にとって本当に大きな意味があるわ。ここダフラにはやり残した宿題があったの。去年は単独で勝ち切ることができず、1位を分け合わなければならなかったから。だからこそ今年ここで単独優勝を果たし、シーズン開幕戦を最高の形でスタートできて本当に嬉しいわ。」
—カプシン・デラノワ
■ 女子決勝・3位決定戦:カイトサイズを落としたカプシン・デラノワが「前年の宿題」を完遂
女子3位決定戦(ミニファイナル)では、1年間のツアー休養から復帰したスウェーデンのヨハンナ・カタリーナ・エディンがルーキーのゾーイ・バジユを下し、見事3位表彰台を獲得した。
迎えた女子グランドファイナル(カプシン・デラノワ対フランシス・ケリー)は、満潮に向かう午後の強風下でスタートした。ヒート序盤に風が一気に吹き上がったのを察知した16歳のカプシン・デラノワは、すぐさまビーチへ戻ってカイトをサイズダウンする的確な判断を下す。オーバーパワーを抑えて完璧なコントロールを手にしたカプシン・デラノワは、インサイドのクリーンで切り立ったセクションに照準を絞り、パワフルな連続ターンで「7.87点」を含むトータル「15.72点」をマーク。誕生日優勝を狙ったフランシス・ケリー(10.22点)をコンボ・アウト(1本の波で10点満点を出しても逆転できない大差)に追い込んで圧倒し、前年の「日没共同優勝」という心残りを晴らす悲願のダフラ単独優勝を成し遂げた。
■ 男子準決勝・決勝:ボクシングさながらの打ち合いと、Duotoneチームメイト対決を制したジェームズ・カルー
男子準決勝ヒート1では、好調のセバスチャン・リベイロが地元モロッコの英雄モハメド・アリ・ベッキャーリの快進撃を止めて決勝へ進出。準決勝ヒート2では、2021年王者ジェームズ・カルーと2016年王者マチュ・ロペスによる「新旧ワールドチャンピオン対決」が実現し、8.27点と7.50点を揃えたジェームズ・カルーが勝利した。
続く3位決定戦(マチュ・ロペス対モハメド・アリ・ベッキャーリ)では、実況のジョー・シアストゥラがボクサーのモハメド・アリになぞらえ「蜂のように飛び、スズメバチのように刺す(Fly like a bee, sting like a wasp)!ボクシンググローブを外した素手の殴り合いだ!」と絶叫するほど白熱した展開となり、終了間際に8.33点のロングライドを決めたマチュ・ロペスが逆転し、3位表彰台を獲得した。
そして大会の掉尾を飾った男子グランドファイナルは、過去2日間にわたり最高得点を連発してきたブラジルのセバスチャン・リベイロと、これまでダフラでは一度も優勝経験がなかったオーストラリアの王者ジェームズ・カルーによる、Duotoneチームメイト同士の頂上決戦となった。
実況席が「ロッキー・バルボア 対 マイク・タイソン」と煽った22分間のファイナルは、開始直後から両者がほぼ同時に波を切り裂く「シンクロナイズド・スナップ」を見せるなど、まさにヘビー級タイトルマッチさながらの壮絶な打ち合いとなった。大会を通じてスムーズなカービングで9点台を量産してきたセバスチャン・リベイロに対し、ジェームズ・カルーは最終ヒートで自身のピークを完璧に爆発させる。巨大なセットの波を捉えて圧倒的なスプレーを上げるパワフルなフロントサイド・ハックを連発し、2本の9点台ライドを揃えてセバスチャン・リベイロを凌駕。海から上がった瞬間は本人すら「負けたと思った」と漏らすほどの極限の僅差を制し、ジェームズ・カルーがダフラでの自身初優勝(およびシーズンランキング首位)を手にした。
なお、本戦終了後の週末には、風と波の中で選手たちが自由にストラップレス・フリースタイルやサーフィンを披露する特別エキシビション「Super-Session(スーパーセッション)」も開催され、熱狂のうちにモロッコラウンドの幕が閉じた。
「ああ、なんてこった、本当にクレイジーなヒートだったよ!これまでここダフラで乗った中でも最高の波を何本か掴むことができたし、ずっと苦戦してきたこの場所で結果を残せて最高だよ。でも正直、海から上がってきた時は彼に負けたと思っていたんだ!」
—ジェームズ・カルー
【男子部門 最終結果(Men’s Division)】
1位:ジェームズ・カルー(オーストラリア)
2位:セバスチャン・リベイロ(ブラジル)
3位:マチュ・ロペス(スペイン / カーボベルデ)
4位:モハメド・アリ・ベッキャーリ(モロッコ)
【女子部門 最終結果(Women’s Division)】
1位:カプシン・デラノワ(フランス)
2位:フランシス・ケリー(カナダ)
3位:ヨハンナ・カタリーナ・エディン(スウェーデン)
4位:ゾーイ・バジユ(フランス)
🔗 関連リンク: GKA Kite-Surf World Cup Dakhla, Morocco – Event Summary – GKA Kite World Tour
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