「今はすごくリラックスしているよ。落ち着いて気楽に構えて、いざ出番が来たら全力で攻めるだけさ。」
概要
2022年6月20日から7月6日にかけて、スペイン南部アンダルシア州のタリファ(Tarifa)で開催された『2022 Qatar Airways GKA Big Air World Championships Tarifa』。カタール航空(Qatar Airways)を新たなタイトルスポンサーに迎え、GKA史上初めて「ビッグエア単独の単発世界選手権(Standalone Big Air World Championships)」として創設された記念碑的メガイベントである。ツインチップ(男女)、ストラップレス(男女)、そして新興のハイドロフォイルという全3機材・5部門の世界タイトルが同時に懸けられ、世界30カ国以上から60名を超えるトップライダーが集結。競技における「ダブル・カイトループ」の実戦投入や女子史上初のブギループ成功など、ビッグエアの歴史が塗り替えられた大会となった。
開催地・2つの風と併催イベント(Expo&Awards)
ヨーロッパ最南端に位置し、ジブラルタル海峡を挟んでアフリカ大陸(モロッコ)を望むタリファは、長年にわたりヨーロッパのウインドスポーツの中心地として君臨してきた聖地である。今大会では約2週間のウェイティング期間を活かし、タリファを代表する「2つの異なる風向とビーチ」を使い分けて競技が実施された。
競技初日となった6月26日(ハイドロフォイル部門)は、プラヤ・デ・バルデバケロス(Playa de Valdevaqueros)にて、西から吹く20〜25ノットの安定したサーマルウィンド「ポニエンテ(Poniente)」のもとで開催された。
そして中盤の風待ち期間を経た7月1日・2日(ツインチップ男女およびストラップレス男女)には、会場をタリファ市街地すぐ近くのプラヤ・デ・ロス・ランセス・スール、通称「バルネアリオ(Balneario)」へと移動。ジブラルタル海峡を吹き抜ける風速30〜40ノット超の猛烈な東風「レバンテ(Levante)」がクロス・オフショアで吹き荒れる中、天然のキッカーを使った超特大の空中戦が繰り広げられた。
また、競技開始前の6月21日から26日にかけては、バルデバケロスのBIBOビーチハウス前にてGKA史上初の国際展示会『Visit Qatar GKA Kite Expo』が開催され、各メーカーの最新ギア試乗会やトッププロによるクリニックで賑わった。さらに6月25日夜には『第1回GKAアワード』の授賞式も開催され、ミカイリ・ソルが年間最優秀女子ライダー賞とベストムーブ賞、12歳のフィン・フリューゲルが男子ルーキー・オブ・ザ・イヤー、モーリシャスのウィロウ=リバー・トンキンが社会貢献賞(Social Contribution of the Year)を受賞した。
フォーマットと「ダブル・ループ時代」の到来
「これは本当に予想を遥かに超える展開となった。今日は20〜25ノット程度のレバンテが吹けばいい方だろうと思っていたが、蓋を開けてみればどうだ?若いライダーたちの手によって、このスポーツの限界が再び押し上げられる瞬間を我々は目の当たりにした。選手たちは我々が想像すらできなかった次元へと競技を引き上げてみせたのだ。」
競技は最大10トライのうち上位3本のトリック得点(各10点満点)に、多様性や完成度を評価する「オーバーオール・インプレッションスコア(3点満点)」を加算する採点方式で争われた。ヒート時間は序盤ラウンドが7分間、準決勝および決勝のみ8分間に延長され、準決勝以降はすべて「1対1のマンオンマン形式(勝者が決勝、敗者が3位決定戦へ回る方式)」が採用された。
さらに今大会では、選手たちが装着したトラッカーアプリ「Surfr」のリアルタイム計測データが中継画面に連動。ジャンプの高さ(ハイドロフォイルで最大18.5メートル、ツインチップで20メートル超)、滞空時間(11秒超)、移動距離、飛行速度(時速88キロ)、さらにはクラッシュ時の衝撃(最大5G超)までもが即座に可視化された。
そして技術面で世界中に衝撃を与えたのが、それまで一部のフリーライド映像の中でしか見られなかった「ダブル・カイトループ(1回のジャンプ中にカイトを2回転させる超高難度技)」や「コントラ・ループ複合回転」が、10代の新世代ライダーたちによって実戦ヒートの中で次々とメイクされた点であった。
ハイライト・名勝負
1. ハイドロフォイル部門(6月26日・バルデバケロス):16歳ジェイミー・オーバービークの11秒フライトと10点満点
7名の精鋭(前年度ハイドロフォイル世界王者シャルル・ブローデル、16歳のオランダの新星ジェイミー・オーバービーク、フリーライドスキー世界王者でもあるスイスのマクシム・シャブロー、ドミニカのベテランアレックス・ソト、ホセリート・デル・ロザリオ、マクシム・デジャルダン、そして12歳のフィン・フリューゲル)で争われたハイドロフォイル部門は、20〜24ノットのポニエンテの中で開幕から度肝を抜く空中戦となった。
マクシム・シャブローがフォイル上でダングルパスを成功させ、アレックス・ソトが14メートル超のカイトループ・ボードオフを披露する中、ラウンド3で最大のハイライトを作ったのが16歳のジェイミー・オーバービークであった。特大の「カイトループ・レイト・バックロール」で高さ18.5メートルへと舞い上がると、降下中にセカンドリフトを捉えて滞空時間11秒超のロングフライトをクリーンに着水させ、大会第1号となる「10点満点」を叩き出した。準決勝ではジェイミー・オーバービークがアレックス・ソトを、フォイルカイトを操るシャルル・ブローデルがマクシム・シャブローを下し、決勝は「フランス 対 オランダ」の頂上決戦となった。
2. 男子ツインチップ部門(7月1日・バルネアリオ):レジェンド対10代の新世代、0.56点差の準決勝
風速35〜40ノットのレバンテが吹き荒れたバルネアリオでの男子ツインチップ部門には、アーロン・ハドロウ、ケビン・ランゲレー、ジェッセ・リッチマン、ニック・ヤコブセン、マーク・ジェイコブスといった歴代『King of the Air』を彩ってきたレジェンドたちと、17歳のイタリア勢アンドレア・プリンチピおよびロレンツォ・カサーティ、「ザ・バイキング」の異名を持つ19歳のオランダ人ヒール・フルーフト、そしてバルネアリオを庭とする地元タリファの英雄リアム・ウェイリーらが集結した。
序盤ラウンドからロレンツォ・カサーティがカイトループに4回転のフロントロールを組み合わせる「Kiteloop Quadruple Front Roll」を放つなど新世代が暴れ回る中、準々決勝(ラウンド4)ではリアム・ウェイリーがニック・ヤコブセンやスティグ・ホフナゲルとの接戦を制し、ロレンツォ・カサーティも元世界王者アーター・ギユベールらを破ってベスト4へ進出。
迎えた1対1の準決勝第1ヒートは、地元リアム・ウェイリーと17歳ロレンツォ・カサーティの激突となった。長いラインで滞空時間を稼ぐロレンツォ・カサーティに対し、リアム・ウェイリーは高さにダングルパスなどの多様性を組み合わせて応戦し、わずか「0.56点差」という超接戦を制して決勝進出を決めた。続く準決勝第2ヒートでは、ダブル・ループの先駆者であるアンドレア・プリンチピとヒール・フルーフトが直接対決。ヒール・フルーフトは最終トライで水面に激しく叩きつけられるクラッシュを喫しながらも最後まで攻め抜き、これを退けたアンドレア・プリンチピがリアム・ウェイリーの待つ決勝へと駒を進めた。
3. 女子2部門と男子ストラップレス部門:女子史上初のブギループ&ドゥビループと、王者ジェームズ・カルーの敗退
7月1日に行われた女子ストラップレス部門では、16歳のカプシン・デラノワと、タリファを拠点とするスイス代表カミユ・ロゼランドが準決勝を勝ち上がり、高高度のロデオ・フロントロールやカイトループを応酬する一騎打ちのファイナルへ突入した(3位決定戦はミカイリ・ソル対 イタリアのモニカ・ギラルドーニ)。
翌7月2日午前に30ノット超の強風下で再開された女子ツインチップ部門では、ラウンド1でフランスのアンジェリー・ブイヨが「メガループ・ダブルバックロール」を決めて女子最高シングルスコアとなる「9.67点」をマーク。続くラウンドでは、イギリスのハンナ・ホワイトリーが終盤に華麗な「コントラループ・フロントロール」を決めたものの、スウェーデンのナタリー・ランブレヒトが終了間際にパワフルな「メガループ・ダブルバックロール」を返し、劇的な逆転で準決勝へ進出した。そして準決勝では、大会の数日前からビッグエアの練習を始めたばかりだった4連覇フリースタイル女王ミカイリ・ソルが、女子競技史上初となる「Boogie loop(ブギループ:インバート姿勢のカイトループ・フロントロール)」および「Doobie Loop(ドゥビループ:カイトループ・ダブル・フロントロール)」をヒート中に成功させる歴史的快挙を達成し、オランダのザーラ・フーゲンラードとの決勝へ進出した。
同日午後の男子ストラップレス部門では、ツアー初出場のブラジル人ルーキー、ガブリエル・ベネトンが台風の目となった。タリファに2ヶ月間滞在して特訓を積んでいたガブリエル・ベネトンは、ラウンド3で前年度Kite-Surf世界王者ジェームズ・カルーを撃破する大金星を挙げると、準決勝でもフランスのカミーユ・デラノワを破って決勝へ進出。別ブロックでイタリアのロレンツォ・カサーティを破った「ストラップレスの帝王」アイルトン・コッツォリーノとのグランドファイナルに挑んだ。
大会の詳細結果を表示(ネタバレ注意)
「今の気持ちを言い表す言葉が見つからないよ。今日は本当にクレイジーな1日だった。自分がやりたかったトリックをすべて決めることができたから、この結果には本当に満足しているし、これ以上ない最高の展開だった。終盤は風がものすごく強くなって、8平米のRebelではオーバーパワーすぎたから、最後の2〜3本のトリックのために小さいカイトへ持ち替えたんだ。」
—アンドレア・プリンチピ
■ ハイドロフォイル部門 決勝結果
3位決定戦では、スイスのマクシム・シャブローがドミニカのアレックス・ソトを下して3位表彰台を獲得。
続くグランドファイナル(シャルル・ブローデル対ジェイミー・オーバービーク)では、9平米のチューブカイトを駆るジェイミー・オーバービークが1本目から「Doobie Loop(ドゥビループ)」で攻め立てたものの、中盤のガスティな風の中でリズムを掴みきれず。対する前年度王者のシャルル・ブローデルは、フォイルカイトの圧倒的な滞空時間を活かして「ブギループ」や「カイトループ・ダブルバックロール」、「コントラループ・ボードオフ」を着実に揃え、初代GKAハイドロフォイル・ビッグエア世界王者に輝いた。
■ 女子ストラップレス部門 決勝結果
3位決定戦ではブラジルのミカイリ・ソルがモニカ・ギラルドーニを下して3位を獲得。
16歳のカプシン・デラノワとタリファ・ローカルのカミユ・ロゼランドによる決勝は、カミユ・ロゼランドがロデオ・フロントロールやバックロールで食い下がったものの、終了のブザーと同時に特大のストラップレス・カイトループをクリーンに着地させたカプシン・デラノワが勝利し、自身初となるGKAワールドチャンピオンの王冠を手にした。
■ 男子ツインチップ部門 決勝結果:10点満点の「ブギ・ダブルループ」と、残り時間を勘違いしたリアム・ウェイリーの悲劇
3位決定戦では、オランダのヒール・フルーフトが15メートル超の「Megaloop Backroll Board-off」などを決めてイタリアのロレンツォ・カサーティを下し、3位表彰台を確保した。
そして夕刻のピークウインドの中で行われたグランドファイナル(アンドレア・プリンチピ対リアム・ウェイリー)は、ビッグエア史に残る壮絶かつ劇的な一騎打ちとなった。序盤はリアム・ウェイリーが特大の「ブギループ」などを決めてリードを奪ったものの、ヒート中盤からレバンテが40ノット近くまで吹き上がったため、両選手ともヒートの途中で一度ビーチへ走り、8平米から6平米へとサイズダウンする「ピットストップ(カイト交換)」を敢行した。
先にカイトを交換して海へ戻った17歳のアンドレア・プリンチピは、ここでフロントロールを回りながらカイトを2回転ループさせる驚異の「Boogie Double Loop(ブギ・ダブルループ)」を発射。カイトが真下に潜り込む極限の角度から奇跡的に体勢を立て直して着水し、ジャッジから文句なしの「10点満点」を引き出して大逆転で首位へ躍り出た。
一方、追う立場となった地元のリアム・ウェイリーには二重の悲劇が襲いかかっていた。まずビーチでのカイト交換の際、40ノットの強風の中でチキンループが外れ、さらにセーフティリーシュも繋がっていない状態で6平米のカイトが急上昇。リアム・ウェイリーはアンフックのまま両手の握力だけでバーに必死にしがみつきながら空中に飛ばされ、波打ち際に漂う大量の海藻の塊へと突っ込んだ。
さらに致命的だったのは、予選まで「7分間」だったヒート時間が、準決勝と決勝のみ「8分間」に延長されていたことをリアム・ウェイリーが知らされていなかった点であった。海藻まみれのラインのままボードを受け取って海へ戻ったリアム・ウェイリーは、手元の7分タイマーを見て「あと10秒で終了ブザーが鳴る!」と思い込んでしまった。実際にはまだ丸々1分以上の残り時間があったにもかかわらず、時間切れを恐れて焦ったリアム・ウェイリーは、それまで一度も成功させたことのなかったぶっつけ本番の「Double Loop Backroll(ダブル・ループ・バックロール)」を強行し、高さが足りないまま水面に激突(リーシュも外れていたためカイトも流され、お尻を強打)。壮絶な幕切れの末、17歳のイタリアの新星アンドレア・プリンチピが初代GKA男子ツインチップ・ビッグエア世界王者の座に就いた。
■ 女子ツインチップ部門 決勝結果
3位決定戦ではスウェーデンのナタリー・ランブレヒトがアメリカのミカエラ・ピルケントンを下して3位に入賞。
ミカイリ・ソルとオランダのザーラ・フーゲンラードによる決勝は、午前中よりもわずかに風が落ちる難しいコンディションとなったが、豊富な試合経験を持つミカイリ・ソルが冷静に高得点のメガループとローテーションをまとめ上げ、ザーラ・フーゲンラードを撃破。ツインチップ・フリースタイル4連覇に加え、自身通算5個目となるワールドタイトルをビッグエア部門で獲得した。
■ 男子ストラップレス部門 決勝結果:終了ブザー前に海から上がった帝王
3位決定戦では、ツインチップに続きストラップレスでもベスト4入りを果たした二刀流の17歳ロレンツォ・カサーティが、フランスのカミーユ・デラノワを破って3位表彰台を獲得。
そして迎えた決勝(アイルトン・コッツォリーノ対ガブリエル・ベネトン)では、初出場で決勝まで駆け上がったブラジルの新星ガブリエル・ベネトンに対し、2014年からストラップレス・ビッグエアを切り拓いてきた絶対王者アイルトン・コッツォリーノが次元の違う高さのカイトループ・ボードオフやコンボを連発。すでに勝利を確信したアイルトン・コッツォリーノは、ヒート終了のブザーが鳴る前に海から上がってビーチへと歩き出す堂々たるウイニングウォークを見せ、自身通算6度目となる世界タイトル(初のストラップレス・ビッグエア世界王者)を戴冠した。
「最高だったよ。今朝はものすごく集中した状態で目が覚めて、エネルギーが満ち溢れていたんだ。何か特別なことが起きる予感がしていたよ。この世界選手権の開催を聞いてからずっと猛練習を積んできたからね。『自分が切り拓いたこのジャンルで負けるわけにはいかない』と思っていたんだ。2014年当時、ストラップレスで高く跳び、大きなカイトでループを回し始めたのは僕ひとりだけだったと思う。だからこそ、まだ一度も手にしたことのなかったストラップレスのビッグエア世界タイトルを勝ち取ることができて本当に嬉しいよ。」
—アイルトン・コッツォリーノ
【全5部門 最終結果(2022 GKA Big Air World Champions)】
■ 男子ツインチップ部門(Men’s Twin-Tip Big Air)
1位:アンドレア・プリンチピ(イタリア)※2022年ワールドチャンピオン
2位:リアム・ウェイリー(スペイン)
3位:ヒール・フルーフト(オランダ)
4位:ロレンツォ・カサーティ(イタリア)
■ 女子ツインチップ部門(Women’s Twin-Tip Big Air)
1位:ミカイリ・ソル(ブラジル)※2022年ワールドチャンピオン
2位:ザーラ・フーゲンラード(オランダ)
3位:ナタリー・ランブレヒト(スウェーデン)
4位:ミカエラ・ピルケントン(アメリカ)
■ 男子ストラップレス部門(Men’s Strapless Big Air)
1位:アイルトン・コッツォリーノ(イタリア / カーボベルデ)※2022年ワールドチャンピオン
2位:ガブリエル・ベネトン(ブラジル)
3位:ロレンツォ・カサーティ(イタリア)
4位:カミーユ・デラノワ(フランス)
■ 女子ストラップレス部門(Women’s Strapless Big Air)
1位:カプシン・デラノワ(フランス)※2022年ワールドチャンピオン
2位:カミユ・ロゼランド(スイス)
3位:ミカイリ・ソル(ブラジル)
4位:モニカ・ギラルドーニ(イタリア)
■ ハイドロフォイル部門(Men’s Hydrofoil Big Air)
1位:シャルル・ブローデル(フランス)※2022年ワールドチャンピオン
2位:ジェイミー・オーバービーク(オランダ)
3位:マクシム・シャブロー(スイス)
4位:アレックス・ソト(ドミニカ共和国)
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