「これまでカイトをしてきた中でも最高のコンディションだよ。13平米のカイトに乗って、このタイバ・ラグーンを独り占めして飛べるんだ。これ以上何を望むっていうんだい?レベルは常軌を逸しているし、ここではライダー自身のスキル以外にパフォーマンスを左右する要素は何ひとつないんだ。」
概要
2022年11月8日から12日にかけて、ブラジル北東部セアラー州のタイバ(Taiba)で開催された『2022 Copa Kitley GKA Freestyle-Kite World Cup Taiba』。コロンビア(サリナス・デル・レイ)、サウジアラビア(ネオム)と続いた2022年Qatar Airways GKAフリースタイル・ワールドツアー(全3戦)の最終戦であり、年間ワールドチャンピオンを決定する大一番である。世界中のプロライダーが練習拠点として愛しながらも、これまで一度も公式大会が開かれたことのなかった「タイバ・ラグーン」での史上初開催が実現し、6年ぶりに電撃復帰したトム・ブリッジが採点システムそのものを揺るがした規格外のコンボ革命や、40点満点中「38.74点」という競技史に残るモンスタースコア、そして最終トライのわずか0.36点差で年間王者の行方が決まる歴史的ドラマが繰り広げられた。
開催地とコンディション:聖地タイバ・ラグーンでの史上初開催
舞台となったタイバ・ラグーンは、クンブコの北西に位置し、カヴィピ・ラグーンと並んで世界のニュースクール・フリースタイルの進化を支えてきた聖地である。普段は数十枚のカイトがひしめき合う人気のラグーンだが、主催のCopa KitleyとGKAの尽力によって、何もない砂州のビーチに審査員タワーやライブ配信設備が建設され、史上初めて「4人の競技者だけがラグーンを独占して戦う」という夢の舞台が整えられた。
さらに大会側は、風上側の気流を乱さないよう審査員タワーを観客エリアから約100メートル離して設置する徹底ぶりをみせた。連日18〜25ノットの暖かく安定したブラジルの貿易風が吹き抜け、ライダーたちが12〜15平米の大きめのカイトで水面鏡のようなバターフラット海面を蹴り上げる、文字通り「言い訳無用」の完璧な環境が出現した。
フォーマットと年間タイトル争いの行方
競技は7トライ中上位4本のスコア合算(40点満点)で競われ、5名のジャッジのうち最高点と最低点を除いた3名の平均点が採用された。
最終戦を迎えた時点での年間タイトルシナリオは極めて明快かつ緊迫していた。開幕戦コロンビアと第2戦ネオムで無傷の2連勝を飾っていたブラジルのマノエル・ソアレスは、今大会で「準決勝進出(ベスト8入り)」を果たした瞬間に、他選手の成績にかかわらず自力での年間ワールドチャンピオンが確定する圧倒的優位な立場にあった。
しかし、万が一マノエル・ソアレスが準々決勝以前(9位タイ以下)で敗退した場合には、ランキング2位のジャンマリア・コッコルート(イタリア)や3位のファン・ロドリゲス(コロンビア)らに「今大会で優勝すれば逆転で年間王者」という道が開かれる状況であった。
一方の女子部門では、開幕戦優勝・第2戦2位の絶対女王ミカイリ・ソルが今大会で3位以内に入れば無条件で年間女王5連覇(純正フリースタイル4連覇)が確定し、前戦ネオム覇者のクラウディア・レオンやベテランのブルーナ・カジヤは「自身が優勝し、かつミカイリ・ソルが4位以下に沈むこと」が逆転女王への絶対条件となっていた。
ハイライト・名勝負
1. 「ジャッジシステムを破壊した男」トム・ブリッジの電撃復帰と、未来を変えた6つのNBD
タイトル争いと並んで今大会最大の伝説となったのが、両膝の大怪我などを経て約6年ぶりにコンペティションへ電撃復帰したイギリスの異端児トム・ブリッジのライディングであった。
初日のラウンド3では、ジャンマリア・コッコルートが大会史上初となる「フロント・ブラインド・モブ5(9.83点)」をメイクし、ヴァレンティン・ロドリゲスがラインを身体に二重に巻きつけて着水する前代未聞の「マミー・ラップ(ミイラ巻き)KGB 5」を決めるなど序盤から新技が続出したが、その中でもビーチの選手や観客の視線を完全に釘付けにしたのがトム・ブリッジであった。
トム・ブリッジは「カイトを低く保って高回転パスを競う」既存の採点基準に一切迎合せず、ラウンド1からラウンド4までの3ヒートで、大会史上初メイクとなったブラインド離水からの「Blind Front Blind Mobe」や「Blind Double Front Roll to Blind」、「クロウ・モブから着水と同時にBlind Slim Chanceへ繋ぐコンボ」、「スリムチャンスからダブル・ハーフキャブ・モブへのコンボ」、「トー・サイド 317」など、実に6つものNBD(Never-Been-Done=前人未到の新技・コンボ)を炸裂させた。さらにラグーン端の岩場や浅瀬を飛び越え、コンペティションエリア(ボックス)の外へ飛び出してもなおアンフックのまま次のトリックへと繋ぎ続ける破天荒なコンボラインを連発し、会場中を熱狂の渦に巻き込んだ。
当時のルールでは「コンボ技は最初の1つ目のトリックしか採点されず、2つ目以降はすべてキャンセルされる」規定であり、カイトの高さによる減点もあって彼の6つのNBDは1本も7.0点を超えることなく(3点〜6点台)、ラウンド4で敗退となった。しかし「トム・ブリッジがジャッジシステムを破壊した」と評されたこの衝撃的な3ヒートのパフォーマンスがフリースタイル界を大きく動かし、GKAがわずか2ヶ月後の2023年シーズン開幕戦から「コンボ系」や「ブラインド/トー・サイド系」を正式評価する新フォーマット(バラエティ・スコア)へとルールブックを書き換える直接の引き金となった。
2. 伝説の大会2日目:38.74点の衝撃とマノエル・ソアレスの準々決勝敗退
大会2日目(11月10日)に行われた男子準々決勝(ラウンド5)ヒート1は、フリースタイル競技史に永遠に刻まれるもうひとつの伝説となった。
このヒートには、上位2名に入って準決勝へ進めばその場で年間王者が確定するランキング1位のマノエル・ソアレスと、彼を阻止して逆転王座を狙うランキング2位のジャンマリア・コッコルートが直接同組で激突。さらにそこへ、前日に指を脱臼しながらも整復して強行出場した地元ラグーンのスペシャリストエリック・アンダーソンと、フランスのヴァレンティン・ガラットが加わった。
序盤はマノエル・ソアレスが13平米のカイトで「スリム9」などを決めて2本目まで首位に立った。しかし3本目にジャンマリア・コッコルートが「9.07点」を出して首位を奪うと、直後にマノエル・ソアレスが着水でフロントエッジを引っ掛けてクラッシュし、ここから歯車が狂い始める。
主導権を握ったジャンマリア・コッコルートは、審査員や観客の度肝を抜く「ビーストモード」へと突入。4本目に「9.67点」を重ねると、5本目の「Grabbed Front Blind Mobe 5」と6本目の「バックサイド319」で2本連続の「10点満点」をマークし、40点満点中「38.74点(内訳:9.07、9.67、10.00、10.00)」というフリースタイル史上最高レベルのスコアを叩き出した。
さらに15平米のカイトを操るエリック・アンダーソンが9.63点を含む31点超えで2位に浮上。3位に後退したマノエル・ソアレスは、最終第7トライで逆転に必要な6.53点を狙ったものの、着水でバットチェックを喫して3.50点に終わり、まさかの準々決勝3位敗退(総合9位タイ)。自力での王座確定を逃し、ビーチのバギーの上からライバルたちの敗退を祈るしかない立場へと追い込まれた。
「ああ、最高の気分だよ。10点満点が2本に9.5点級が2本という、ほぼパーフェクトなヒートができて本当に興奮している。フリースタイルの大会史の中でもベストヒートのひとつになったと思うし、すごくハッピーだよ。これでオレもワールドチャンピオンになれる可能性が繋がったから、まだ大会が終わっていないことを忘れずに集中し続けるよ。」
—ジャンマリア・コッコルート
3. 30点超えが続出した準々決勝・準決勝と、9.97点のマクシム・シャブロー
マノエル・ソアレスの敗退によってタイトル争いの「パンドラの箱」が開いた準々決勝では、以降のヒートでもカルロス・マリオ、アデウリ・コルニエル、ファン・ロドリゲス、マクシム・シャブローらが次々と30点超えをマークした。
迎えた最終日の男子準決勝ヒート1には、ジャンマリア・コッコルート、ファン・ロドリゲス、カルロス・マリオ、アーター・ギユベールの4名が集結。優勝すれば逆転王者の可能性があったファン・ロドリゲスが激しいクラッシュもあって4位で敗退し、膝にテーピングを巻いて挑んだ前年度王者アーター・ギユベールも最終トライの「フロント・ブラインド・モブ5」がわずかに届かず3位敗退。ジャンマリア・コッコルートとカルロス・マリオが決勝進出を決め、この時点で年間王者の可能性は「決勝で優勝すれば逆転王者のジャンマリア・コッコルート」と「Coccolutoが2位以下なら王者のマノエル・ソアレス」の2人だけに絞られた。
続く男子準決勝ヒート2では、スイスのマクシム・シャブローが圧巻のライディングを披露。9.03点のトリックで首位に立つと、すでに1位通過が確定していた最終第7トライで完璧な「バックモブ7(モブ7)」を放ち、あわや満点という「9.97点」を記録。2位のエリック・アンダーソンと共に、最高潮の勢いで決勝へと乗り込んだ。
一方、女子準決勝では、逆転女王の可能性を残していた前戦ネオム覇者クラウディア・レオンが準決勝で敗退。タイバ・ラグーンから車でわずか15分の場所に自宅を持つミカイリ・ソル、35歳のベテランブルーナ・カジヤ、スペインのリタ・アルナウス、スウェーデンのナタリー・ランブレヒトの4名が決勝へ進出した。
大会の詳細結果を表示(ネタバレ注意)
「現実とは思えないくらいだけれど、ずっと昔から頭の中で描き続けてきた光景なんだ。オレ自身の心の中では、自分はすでにワールドチャンピオンだった。ただ、自分に何ができるかを証明するためには、このような最高の場所が必要だったんだ。そしてついに世界最高のスポットのひとつで大会が開かれ、自分の才能と実力をすべて見せることができた。これで決まりさ、ワールドチャンピオンだ!」
—ジャンマリア・コッコルート
■ 女子グランドファイナル:ホームラグーンのミカイリ・ソルが9.00点を叩き出し通算6冠達成
女子決勝(ミカイリ・ソル、ブルーナ・カジヤ、リタ・アルナウス、ナタリー・ランブレヒト)では、ホームのタイバ・ラグーンを知り尽くす18歳のミカイリ・ソルが序盤から他を圧倒した。
すでに王座防衛を確実なものとしていた6本目のトライでも一切手を緩めず、圧倒的なエントリースピードから「Stalefish Grab Slim 5(ステイルフィッシュ・グラブ・スリム5)」を完璧に着地させて「9.00点」を獲得。トータル「31.67点」で優勝を飾り、純正フリースタイル部門で4度目(2018・2019・2021・2022)、ビッグエア部門の2冠と合わせて18歳にして通算6個目となるワールドタイトルを手にした。
白熱した準優勝争いでは、2016年に女子史上初の「バックサイド315」をメイクした女子フリースタイルの先駆者ブルーナ・カジヤが、最終トリックのプレッシャーの中で完璧な「バックモブ」を成功させ、トータル「27.98点」をマーク。全3戦すべてで3位表彰台に立つ抜群の安定感を見せたリタ・アルナウス(26.70点)を土壇場で逆転し、大会2位および年間ランキング2位を獲得した(4位は23.53点のナタリー・ランブレヒト)。
■ 男子グランドファイナル:最終トライ「6.86点」を巡る0.36点差の運命の決着
そして2022年フリースタイルシーズンのすべてを決する男子グランドファイナル(ジャンマリア・コッコルート、マクシム・シャブロー、エリック・アンダーソン、カルロス・マリオ)は、最後の1秒まで勝者と年間王者が分からない究極のクライマックスとなった。
「優勝以外では年間王者になれない」ジャンマリア・コッコルートは、プレッシャーを微塵も感じさせない高さと完成度で4本目までに首位(32.83点)に立つ。3位争いでもエリック・アンダーソンが31.53点を叩き出して4位カルロス・マリオ(27.27点)を上回るハイレベルな展開となる中、ジャンマリア・コッコルートはリードをさらに広げようと挑んだ最終第7トライの「バックモブ7」でまさかのクラッシュを喫してしまう。
この瞬間、2位につけていたスイスのマクシム・シャブローの前に逆転優勝への扉が大きく開かれた。
ヒート最後の1本となったマクシム・シャブローの第7トライ。彼の手持ちの最低スコアは6.30点であり、この最終トライで「6.86点以上」を出せばマクシム・シャブローが逆転で大会優勝(同時に、ビーチで祈るマノエル・ソアレスの年間ワールドチャンピオンが確定)。逆に「6.85点以下」に終われば、ジャンマリア・コッコルートが優勝して逆転での年間ワールドチャンピオンに輝くという、1本のジャンプに2人の運命が懸かる場面となった。
マクシム・シャブローが放ったのは、ノーズグラブを入れた「Slim Chance 7(スリム7)」。クリーンに着水したかに見えたが、全員が固唾を呑んで見守る審査員ボードに表示されたスコアは「6.50点」。
必要スコアにわずか「0.36点」届かず(トータル32.83点 対 32.47点)、この瞬間、イタリアのジャンマリア・コッコルートによるGKAツアー初優勝と、マノエル・ソアレスをわずか50ポイント差(2,470 pts 対 2,420 pts)で逆転しての2022年GKAフリースタイル年間ワールドチャンピオン戴冠が決定した。
【男子部門 最終結果(Men’s Division Final Results)】
1位:ジャンマリア・コッコルート(イタリア)— 32.83 pts
2位:マクシム・シャブロー(スイス)— 32.47 pts
3位:エリック・アンダーソン(ブラジル)— 31.53 pts
4位:カルロス・マリオ(ブラジル)— 27.27 pts
【女子部門 最終結果(Women’s Division Final Results)】
1位:ミカイリ・ソル(ブラジル)— 31.67 pts
2位:ブルーナ・カジヤ(ブラジル)— 27.98 pts
3位:リタ・アルナウス(スペイン)— 26.70 pts
4位:ナタリー・ランブレヒト(スウェーデン)— 23.53 pts
【2022年GKAフリースタイル年間ランキング トップ3(Overall World Championship Standings)】
・男子年間ランキング:1位ジャンマリア・コッコルート(イタリア・2,470 pts)※2022年ワールドチャンピオン / 2位マノエル・ソアレス(ブラジル・2,420 pts) / 3位カルロス・マリオ(ブラジル・2,070 pts)
・女子年間ランキング:1位ミカイリ・ソル(ブラジル・2,870 pts)※2022年ワールドチャンピオン / 2位ブルーナ・カジヤ(ブラジル・2,440 pts) / 3位リタ・アルナウス(スペイン・2,310 pts)
検索用エイリアス: 2022 Taiba Copa Kitley GKA Freestyle World Cup, 2022TaibaCopaKitleyGKAFreestyleWorldCup

