「今大会から新しいフリースタイルのフォーマットを導入している。これはヒートの最後に『バラエティ・スコア(多様性ポイント)』を加算し、トリックの多様性を正当に評価するための仕組みだ。ここ10〜15年ほど、この競技では大きなイノベーションが停滞していた上、高回転化によって選手たちが怪我をするケースも増えていた。ライダーや業界、そして観客からも『ただ回転数を競うだけでなく、一般の観客をもっと惹きつける新しい何かが必要だ』という強い求めがあったんだ。この改革によって怪我を減らし、これまで探求されてこなかったカイトボーディングの新たな側面を引き出すことができるはずだ。」
概要
2023年1月31日から2月4日にかけて、カタール北部のフワイリット(Fuwairit)で開催された『2023 Visit Qatar GKA Freestyle-Kite World Cup Fuwairit』。全5戦で争われる2023年Qatar Airways GKAフリースタイル・ワールドツアーの開幕戦であり、カタール史上初めて開催されたGKA公式ワールドカップである。オープンしたばかりの世界最高峰のカイト専用リゾート「フワイリット・カイト・ビーチ・リゾート(FKB)」のフラットラグーンを舞台に、2023年シーズンから導入された画期的な新採点ルール「バラエティ・スコア(最大7点)」のもとで、新時代のフリースタイル頂上決戦が繰り広げられた。
開催地・コンディション:新設「フワイリット・カイト・ビーチ・リゾート」
会場となったフワイリット・カイト・ビーチ・リゾート(FKB)は、首都ドーハから北へ車で約1時間〜1時間半のペルシャ湾沿岸に位置する、カイトボーディングのために設計された最新鋭のビーチリゾートである。
砂州によって外洋の波から守られた天然のタイダルラグーン(潮汐ラグーン)が広がっており、水深は胸ほどの浅さで水面は鏡のようにフラットという、フリースタイルにとって理想的な環境を備えている。ただし潮の干満によってラグーンの水位が大きく変動するため、競技は十分な水深が確保される早朝や午後の満潮時間帯(ハイタイド)に合わせてスケジュールが組まれ、15〜22ノットの北風(シャマル)の中で選手たちは10平米から13平米のカイトを使用して熱い戦いを展開した。
2023年の新ルール:トム・ブリッジが触発した「7点満点のバラエティ・スコア」
今大会最大の注目点は、フリースタイル競技の「スピン・トゥ・ウィン(ただハンドル・パスの回転数だけを競う傾向)」からの脱却と怪我の防止、そして表現力の多様化を目指して導入された新ルール「バラエティ・スコア(Variety Score)」であった。
この改革の直接的な引き金となったのが、前シーズン最終戦(2022年11月ブラジル・タイバ大会)で約6年ぶりに復帰したイギリスの異端児トム・ブリッジが、岩場やコンペティションエリア外もお構いなしに6つものNBD(前人未到トリック)や驚異的なコンボラインを連発した出来事であった。当時のルールではコンボの2つ目以降が採点対象外となり、彼の革新的なライディングがスコアに反映されなかったことから大きな議論が巻き起こり、GKAはオフシーズンのうちに採点システムを抜本的に書き換えたのである。
新フォーマットでは、従来通り7トライ中上位4本のトリック得点(各10点満点・計40点満点)が集計されるのに加え、その上位4本のトリックが「いくつの異なるトリック・ファミリー(系統)にまたがっているか」によって、ヒート終了時に最大7点のボーナスポイントが自動加算される仕組み(満点は40点+7点=47点満点)へと刷新された。
【バラエティ・スコアの配点内訳とトリック・ファミリー】
・上位4本がすべて同一ファミリーのみ:+1点
・2つの異なるファミリーをメイク:+2点
・3つの異なるファミリーをメイク:+4点
・4つすべて異なるファミリーをメイク:+7点(満点)
※トリック・ファミリーは、①ヒールサイド系(さらに「レイリー系」「スリム/Sモブ/KGB系」「ヒンターバーガー/ハートアタック系」「モブ/ダブル・ハーフキャブ系」の4サブファミリーに分類)、②トー・サイド/ブラインド系、③リワインド系、④コンボ系、⑤カイトループ/ダウンループ系の大きく5系統(計8区分)に再編された。これにより、いかに高難度のパスを決めても同系統ばかりでは最大3点〜6点もの差がつくため、トー・サイドやコンボ、リワインドを織り交ぜる高度な戦略性が求められることとなった。
ハイライト・名勝負
1. 1年半ぶり復帰のルカ・ピトーとカリム・マームードが新ルールで躍動
この新フォーマットに誰よりも早く順応し、大会序盤の主役となったのが、膝の怪我から約1年半(18ヶ月)ぶりにツアー復帰を果たしたモーリシャス代表(フランス籍)のルカ・ピトーであった。
競技が始まった2日目(2月1日)の男子準々決勝ヒート1で、ルカ・ピトーは1本のジャンプ中に複数の動きを繋ぐ「コンボ系」やリワインドを巧みに組み合わせて4つの異なるファミリーを完遂。バラエティ・スコアで満点の7点を獲得し、4度の元世界王者カルロス・マリオを2位に抑えて1位通過を果たすとともに、この日の最高ヒートスコアを記録した。
続く準々決勝ヒート2では、エジプトのカリム・マームードもバラエティ7点満点を獲得して前年度ランキング2位のマノエル・ソアレスと共に準決勝へ進出。ヒート3ではコロンビア勢のファン・ロドリゲスと2019年王者ヴァレンティン・ロドリゲスがワンツー通過を決めた(前年度王者ジャンマリア・コッコルートが登場したヒート4は風速低下により途中で順延となったが、金曜日早朝の再開ヒートでジャンマリア・コッコルートが32点超えを出して1位通過を果たした)。
2. 早朝の男子準決勝:バラエティ点が明暗を分けた決勝進出争い
干潮前に実施された大会4日目(2月3日・金曜日)早朝の男子準決勝でも、バラエティ・スコアが劇的なドラマを生んだ。
準決勝ヒート1(ヴァレンティン・ロドリゲス、ルカ・ピトー、マノエル・ソアレス、カリム・マームード)では、コロンビアのヴァレンティン・ロドリゲスが首位で通過を決める中、ルカ・ピトーは純粋なトリック点だけでは3位の位置にあった。しかし、4系統すべてを揃えて7点満点のバラエティ・スコアを獲得したことでマノエル・ソアレスを逆転して2位に浮上し、自身キャリア初となるGKAグランドファイナル進出を掴み取った。
続く準決勝ヒート2では、早朝の冷たい風で序盤こそ硬さが見られた前年度王者ジャンマリア・コッコルートが後半に強力な「KGB5」などを決めて34.54点で1位通過。2位にはカルロス・マリオが入り、ファン・ロドリゲス(27.84点)らを退けて決勝進出を決めた。
3. 女子準決勝:負傷リタイアの波乱と、4強の決勝進出
一方、大会2日目の午後に行われた女子準決勝では、ヒート1で前年度3位のスペイン代表リタ・アルナウスがハードな着水で負傷し、ヒート途中で棄権するアクシデントが発生。このヒートはパワフルな「KGB」でこの日の女子最高シングルスコアを叩き出したスウェーデンのナタリー・ランブレヒトが1位、ベテランのブルーナ・カジヤが2位で決勝へ進出した。
風がやや弱まった中で行われた準決勝ヒート2では、ディフェンディングチャンピオンのミカイリ・ソルとスペインのクラウディア・レオンが危なげなく上位2枠を確保し、ファイナルの4名(ブルーナ・カジヤ、ミカイリ・ソル、ナタリー・ランブレヒト、クラウディア・レオン)が出揃った。
大会の詳細結果を表示(ネタバレ注意)
「ただひとつ言えるのは、この勝利まで本当に長い道のりだったということ。これほど長い間戦ってきて、今でもこうして目に涙が浮かぶほどの感動を味わえるなんて、本当にこのスポーツの美しさには驚かされるし、心から愛しているわ。自分のすべてを出し切ったし、この場所にいられることがただ幸せで感謝しかない。ミカをはじめ女の子たち全員が素晴らしかったし、ルームメイトとして楽しい時間を過ごしてきたナタリーやクラウディアたちと競い合えて光栄よ。再びナンバーワンの座に立てるなんて、何と言っていいか分からないわ。」
—ブルーナ・カジヤ
■ 女子グランドファイナル:バラエティ満点のブルーナ・カジヤが絶対女王を破り復活優勝
金曜日の午後、ラグーンに再び潮が満ちて大観衆がビーチを埋め尽くす中、女子グランドファイナル(ブルーナ・カジヤ、ミカイリ・ソル、ナタリー・ランブレヒト、クラウディア・レオン)がスタートした。
18歳の絶対女王ミカイリ・ソルは、1本目にこのヒート最高得点となる「8.07点のスリム5」を叩き出して強烈な先制パンチを放った。しかしその後、「ヒンターバーガー5」をメイクするのに3トライを費やしてしまい、異なるトリック・ファミリーを3つまでしか揃えることができず、バラエティ・スコアが「4点」にとどまる苦しい展開となった。
対する35歳(2023年シーズン中に36歳)のベテラン、3度の元世界女王ブルーナ・カジヤは、1本目の教科書のようにクリーンな「バックモブ」から「バックサイド313」、「スリムチャンス」と3連続メイクでリズムに乗ると、冷静に4つの異なるファミリーをすべてクリアして「7点満点」のバラエティ・スコアを獲得。
迎えた最終第7トライ、ミカイリ・ソルは逆転優勝を懸けてトー・サイドの「Crow Mobe(クロウ・モブ)」に挑んだものの、着水時のハンドル・パスでバーを掴み損ねてクラッシュ。この瞬間、トータル「31.86点(うちバラエティ7点)」を記録したブルーナ・カジヤが、ミカイリ・ソル(28.24点・うちバラエティ4点)とナタリー・ランブレヒト(26.56点・うちバラエティ7点)を抑えて数年ぶりとなる悲願のGKAツアー優勝を成し遂げた(4位はクラウディア・レオン)。
■ 男子グランドファイナル:上位3名が「0.60点差」にひしめいた超接戦をジャンマリア・コッコルートが制す
大会の最後を飾った男子グランドファイナル(ジャンマリア・コッコルート、カルロス・マリオ、ルカ・ピトー、ヴァレンティン・ロドリゲス)は、ファイナリスト4名全員が4つの異なるトリック・ファミリーを完遂して「バラエティ・スコア7点満点」を獲得するという、新フォーマットの理想を体現する究極の空中戦となった。
オフシーズンに2ヶ月間ほとんどカイトに乗らずに今大会へ臨んでいたという前年度王者ジャンマリア・コッコルートだったが、午後の強まり始めた風(10平米サイズ)の中で王者の貫禄を発揮。ダブルグラブ(テール・トゥ・ノーズ)を入れた「フロント・ブラインド・モブ」や決定打となったクリーンな「スリム7」を次々と着水させ、トータル「32.53点(うちバラエティ7点)」をマークした。
復活を期すカルロス・マリオも「ダブル・ヒンターバーガー 5」などを決めて猛追したが、トータル「32.10点(うちバラエティ7点)」でわずか「0.43点」届かず2位。さらに初ファイナルのルカ・ピトーも「31.93点(うちバラエティ7点)」と、カルロス・マリオからわずか0.17点差(首位から0.60点差)の3位に食い込む大健闘を見せた(4位は28.43点のヴァレンティン・ロドリゲス)。王座防衛へ最高のスタートを切ったジャンマリア・コッコルートの開幕戦優勝により、カタールでの歴史的な初開催は幕を閉じた。
「この新しいフォーマットは、オレたちフリースタイル界にとって最高の解決策だと思うよ。フリースタイルを衰退させず、新しい世代のライダーたちをツアーに呼び込むためにもね。ライダーたちはみんな普段から膨大な種類のトリックを持っているから、それをこうして試合の中で披露できるのは素晴らしいことだし、この新フォーマットにはすごく満足しているよ。」
—ジャンマリア・コッコルート
【男子部門 最終結果(Men’s Division Final Results)】
1位:ジャンマリア・コッコルート(イタリア)— 32.53 pts(Variety: 7 pts)
2位:カルロス・マリオ(ブラジル)— 32.10 pts(Variety: 7 pts)
3位:ルカ・ピトー(フランス / モーリシャス)— 31.93 pts(Variety: 7 pts)
4位:ヴァレンティン・ロドリゲス(コロンビア)— 28.43 pts(Variety: 7 pts)
【女子部門 最終結果(Women’s Division Final Results)】
1位:ブルーナ・カジヤ(ブラジル)— 31.86 pts(Variety: 7 pts)
2位:ミカイリ・ソル(ブラジル / アメリカ)— 28.24 pts(Variety: 4 pts)
3位:ナタリー・ランブレヒト(スウェーデン)— 26.56 pts(Variety: 7 pts)
4位:クラウディア・レオン(スペイン)
🔗 関連リンク: Qatar Airways Celebrates the Opening of Fuwairit Kite Beach Resort – GKA Kite World Tour
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