「最後の決勝ヒートでは、1ヒートの中で2つの『世界初メイク』の技を決めることができた。自分の名を冠した『ブロデル・フリップ』と、キング・デッドマンのように空中でバーを両脚の間に挟み込むトリックだ。ファイナルの舞台でこの2つを着地させられて本当に嬉しいよ。このタイトルを獲るために猛練習を積んできたから最高に興奮している!」
概要
2021年11月16日から19日にかけて、ブラジル北東部の大都市フォルタレザ(Fortaleza)で開催された『2021 GKA Hydrofoil Freestyle World Cup(SuperFoil Brasil 2021)』。姉妹ツアーであるGWAウィングフォイル・ワールドツアーとの合同メガイベントとして開催され、2021年シーズンのGKAハイドロフォイル・フリースタイル世界王者を決定する「一発勝負の単発世界選手権(One-stop World Championship)」として実施された。わずか10〜15ノットの風で上空6〜10メートルへと舞い上がるフォイルカイトの空中曲芸と、ストラップレスによる水面上の華麗なボードさばきという「2つの異なる流派」が激突し、新興ディシプリンの爆発的な進化を世界に示した大会である。
開催地とコンディション
舞台となったのは、高層ビル群のスカイラインがビーチのすぐ背後にそびえ立つフォルタレザの中心部、プライア・デ・イラセマ(Praia de Iracema)である。
通常のツインチップ・フリースタイルでは競技成立すら危ぶまれる10〜15ノットの微風からスタートし、最終日に向けて20〜22ノットへと風速が上がる中、水中翼(ハイドロフォイル)の揚力を活かして都市の目の前の海面が巨大なエアリアル・アリーナへと変貌した。夕暮れ時には大都市のビル群と白い砂浜が黄金色に染まる中、連日多くの地元観客が詰めかけた。
2つの流派の激突とレギュレーション
黎明期にあるハイドロフォイル・フリースタイルを象徴していたのが、出場ライダーたちの機材とスタイルが「2つの流派」に真っ二つに分かれていた点である。
ひとつは、フランス勢(シャルル・ブローデルやマクシム・デジャルダンら)を中心とする「フットストラップ+ラムエアー(フォイル)カイト派」である。パラグライダーのような構造を持つ非膨張式のフォイルカイトとストラップ付きボードを用い、圧倒的な滞空時間を活かしてトリプルフロントロールやオールドスクールなボードオフなど、高高度の空中アクロバットを追求した。
もうひとつは、アメリカ・オレゴン州フードリバー勢(前年王者のフレッド・ホープ、リード・ブレイディ、ロビン・シーワートら)やセザール・ナトリーらを中心とする「ストラップレス+インフレータブル(チューブ)カイト派」である。足を固定しないボードの上で、座った姿勢で着水する「Lazyboy(レイジーボーイ)」や、空中で身体の周りにボードを一周させる「アラウンド・ザ・ワールド」、トルネード、ショービットなど、スケートボードのような自由なフローと独創的なサーフェストリックを武器に戦った。
競技は9分間・最大15トライのうち上位4本のスコアを合算するフォーマットで行われ、最低でも2つ以上の異なるトリックファミリー(系統)を含める多様性が求められた。特にジャッジが高く評価したのは「着水時にボード自体を一度も水面に触れさせず、水中翼(マスト)だけで浮いたままクリーンに走り抜けるコントロール技術」であった。また、前例のない新技が次々と飛び出すため、スキッパーズミーティング前にはジャッジと選手たちが車座になり、「まだ名前のない新技にその場で名前をつけ、どの採点カテゴリーに分類するか」を取り決めるという、新スポーツ誕生の瞬間ならではの光景が見られた。
なお、女子部門には4名(ドイツのマイケ・エリサ、アメリカのカイリー・ザルマティ、イタリアのサムエラ・ムレー、フランスのオーロワ・ジネステ)がエントリーしたが、GKA規定により世界選手権の成立には最低6名の出場が必要とされていたため、女子はワールドタイトルのかからないイベントタイトル戦(シングルおよびダブル・エリミネーション方式)として競われた。
ハイライト・名勝負
境界線を超えたアンバサダー:聴覚障害を持つロビン・シーワートの躍動
今大会でビーチと配信ブースに最大の感動をもたらしたのが、ストラップレス派のロビン・シーワートの活躍だった。生まれつき聴覚を持たず、読唇術も使わない彼は、ビーチに立つ手話通訳のパートナーと視覚的なサインを交わしながら、9分間のヒート時間やスコア状況、風のシフトを把握して戦った。
ラウンド1から高難度の「Tornado(トルネード)」やボードオフを次々と決め、ツインチップの本職でありながらフォイルでも果敢に「Backroll Kiteloop」を放ったドミニカの猛者ホセリート・デル・ロザリオをラウンド3で撃破。堂々のベスト4(準決勝)進出を果たした彼の姿に、実況のジョー・シアストゥラは惜しみない賛辞を送った。
「ロビンは完全に耳が聞こえないんだ。ここには手話通訳のパートナーが同行してすべてを伝えているけれど、彼に言葉なんて必要ない。昨日彼と一緒に過ごしたけれど、彼から溢れ出るポジティブなバイブスとエネルギーは凄まじいよ。文字通り、このスポーツに限界や境界線など存在しないことを体現する最高の手本でありアンバサダーだ。」
—ジョー・シアストゥラ
準々決勝の大番狂わせ:ルーキーマクシム・デジャルダンが前年王者フレッド・ホープを撃破
準々決勝(ラウンド3)の最終ヒートでは、大会最大の番狂わせが起きた。登場したのは、前年2020年の同大会でシャルル・ブローデルを破って初代王者に輝いたストラップレス界のパイオニア、アメリカのフレッド・ホープ。対するは、姉のボーイフレンドであるシャルル・ブローデルの姿に憧れてハイドロフォイルを始め、今大会が人生初のコンペティション出場となったフランスの若手マクシム・デジャルダンであった。
「父と姉が始めたのをきっかけに僕もフォイルを始めたんだ。その後、姉のボーイフレンドであるシャルル・ブロデルがハイドロフォイル・フリースタイルを始めて、その姿が本当にスペクタクルに見えたから僕も挑戦してみたらすっかり虜になった。今回が僕にとって人生初の大会だけど、水上で自分に何ができるのかを世界に見せつけたい。」
—マクシム・デジャルダン
ヒートでは、フレッド・ホープが代名詞の「レイジーボーイ(7.43点)」やローストビーフ・グラブ、そして終了間際に完璧な「アラウンド・ザ・ワールド」をメイクして猛追したものの、逆転に必要な7.16点にわずかに届かず。ピンクのフォイルカイトを操るマクシム・デジャルダンが、師匠譲りの高高度「Double Backroll Board-off」などを揃えて前年王者を撃破し、準決勝へと駆け上がった。
大会の詳細結果を表示(ネタバレ注意)
最終日、20〜22ノットの好風に恵まれる中、まず行われた女子ダブル・エリミネーション決勝では、シングル・エリミネーション1位のマイケ・エリサ(ドイツ)が、追い上げてきたアメリカのカイリー・ザルマティらを退け、トータル12.57点で記念すべき女子イベント優勝を飾った。
男子準決勝第1ヒートでは、絶対本命のシャルル・ブローデルが24.54点を叩き出してロビン・シーワートを撃破。準決勝第2ヒートでは、ストラップ派のマクシム・デジャルダンとストラップレス派のセザール・ナトリーによるフランス勢対決となり、終了間際にパワフルな大技を決めたマクシム・デジャルダンが決勝進出を決めた。
続く3位決定戦(ロビン・シーワート対セザール・ナトリー)は、ストラップレス派同士による究極のスキルバトルとなった。技術的なトラブルにより異例の「再試合(リラン)」となったこの一戦は、両者がボードを水面に触れさせない華麗な「アラウンド・ザ・ワールド」やワンフッターを応酬する大接戦の末、ロビン・シーワートが勝利。表彰式ではMCのジョー・シアストゥラも覚えたての手話で彼を称え、会場中が温かい拍手に包まれた。
そして迎えた男子グランドファイナルは、シャルル・ブローデルと、彼の恋人の弟であり愛弟子でもあるマクシム・デジャルダンによる「義兄弟・師弟対決」となった。
互いに手の内を知り尽くした2人は、ヒート中もすれ違いざまにサムズアップを交わしながら大技を連発。マクシム・デジャルダンも果敢に攻めたが、決勝でのシャルル・ブローデルはまさに異次元であった。自身の名を冠した「ブローデル・フリップ」と、空中でカイトバーを両脚の間に挟み込む「キング・デッドマン」スタイルの新技という「2つの世界初トリック」を決勝ヒートの中で完璧に成功させ、実況席から「まるで水上のシルク・ドゥ・ソレイユ(Cirque du Soleil)だ」と感嘆の声が上がるほどの演技を披露。トータル「30.02点」という圧倒的なハイスコアを叩き出し、前年の雪辱を果たして2021年GKA Hydrofoil Freestyleワールドチャンピオンの王冠を手にした。
【男子部門(Men’s Division / 単発世界選手権)】
1位:シャルル・ブローデル(フランス)※2021年年間ワールドチャンピオン
2位:マクシム・ルアン・デジャルダン(フランス)
3位:ロビン・シーワート(カナダ / アメリカ)
4位:セザール・ナトリー(フランス)
5位:ホセリート・デル・ロザリオ(ドミニカ共和国) / フレッド・ホープ(アメリカ)ほか
【女子部門(Women’s Division)】
1位:マイケ・エリサ(ドイツ)
2位:カイリー・ザルマティ(アメリカ)
3位:サムエラ・ムレー(イタリア)
4位:オーロワ・ジネステ(フランス)
検索用エイリアス: 2021 GKA Hydrofoil Freestyle World Cup (Superfoil), 2021GKAHydrofoilFreestyleWorldCup(Superfoil)

