2023 Lords of Tram GKA Big Air Kite World Cup Barcares

「すべては上昇していく瞬間の感覚にかかっている。正しいテイクオフができたか、ラインに適切なテンションがかかっているか、今こそループを引いて本気で回すべきタイミングか?それはまるで宇宙船の打ち上げと同じようなものさ。もし上昇の途中で少しでもおかしいと感じたら、空中でミッションを中断しなければならないんだ。」

—ルーベン・レンテン

概要

2023年4月1日から4月2日(ウェイティング期間は4月1日〜30日)にかけて、フランス南部ル・バルカレス(Le Barcarès)で開催された『2023 Lords of Tram GKA Big Air Kite World Cup Barcares』。2019年にフランス初の本格的ビッグエア大会としてグリュイッサン(Gruissan)で誕生し、第4回(2022年)からル・バルカレスへ拠点を移した名物大会「Lords of Tram」の第5回記念大会であり、2023年シーズンから初めてQatar Airways GKA Kite World Tourの公式戦(全2戦で争われるBig Air Twin-Tip部門の開幕戦)として統合された歴史的一戦である。ピレネー山脈から吹き下ろす冷たく暴力的な強風「トラモンターナ」がウェイティング期間の初日から牙を剥き、世界最高峰の男女ビッグエアライダーたちが極限の空中戦を繰り広げた。

開催地とコンディション:ピレネー山脈から吹き下ろす暴風「トラモンターナ」

会場となったル・バルカレス(ポール・バルカレス)は、ペルピニャンの北、スペイン国境からも近い地中海沿岸のラグーン(リューカット湖/Étang de Leucate)に位置するスポットである。
大会名の「Tram」が示す通り、この地域特有の北西風「Tramontana(トラモンターナ)」が最大の特徴である。雪を頂くピレネー山脈の冷たい空気が暖かい地中海へ向かって一気に吹き下ろすことで、35〜50ノット超という猛烈なオフショア〜クロス・オフショアの突風が発生する。外洋ではなく潮汐のないラグーン側が競技エリアとなるため、40ノットを超える暴風下でありながら水面はチョップの少ないフラット〜小波に保たれ、ライダーたちが驚異的なスピードでエッジをかけて成層圏のような高さへと飛び出すことができる唯一無二のロケーションである。

フォーマットと出場選手:1人ずつ飛ぶ「ボックス・シークエンス方式」

安全面とジャッジの正確性を高めるため、今大会では1対1(または3〜4名)のヒートにおいて、複数の選手が同時に飛ぶのではなく、旗の合図に従って1人ずつ順番にテイクオフゾーンへ進入してジャンプを行う「シークエンス方式(ターン制ボックスフォーマット)」が採用された。
各選手には1ヒートにつき7回のトリック機会が与えられ、そのうち「異なるトリック・ファミリーから揃えられた上位3本」のスコア合算(30点満点)で勝敗が争われた。また、ライブ配信画面には「Surfr.」アプリの計測データがリアルタイム連動され、ジャンプの高さ・飛距離・滞空時間が視聴者にも即座に表示された。解説ブースにはルイス・クラザーンに加え、メガループの創始者ルーベン・レンテンと5度の元世界王者アーロン・ハドロウという豪華なレジェンド陣が並んだ。

出場選手は男子24名、女子12名。
男子部門には、前年のタリファ単発世界選手権および2022年Lords of Tramの覇者である18歳の絶対王者アンドレア・プリンチピ(イタリア)、そのタリファ決勝で敗れリベンジを期すリアム・ウェイリー(スペイン)、直前のRed Bull King of the Airを制しCabrinhaへの電撃移籍を果たした17歳ロレンツォ・カサーティ(イタリア)、ダブル・ループの先駆者ヒール・フルーフト(オランダ)、16歳(2023年シーズン中に17歳)のハイフライヤージェイミー・オーバービーク(オランダ)、さらにベテランのアーロン・ハドロウ(イギリス)やマーク・ジェイコブス(ニュージーランド)、地元フランスのエドガー・ウルリック、アーター・ギユベール、クレメント・ウオットらが集結した。
女子部門には、ディフェンディング世界女王の18歳ミカイリ・ソル、地元フランスのビッグエア・スペシャリストアンジェリー・ブイヨ、前年度2位のザーラ・フーゲンラード(オランダ)、3位のナタリー・ランブレヒト(スウェーデン)、イギリスのフランチェスカ・マイニ、ハワイ拠点のカーリー・トーマら12名が名を連ねた。

ハイライト・名勝負

1. 初日(Day 1):女子準々決勝の9.00点、失格劇、そして50ノット近い暴風による競技中断
大会初日(4月1日)は午後から女子部門で幕を開けた。開始当初20〜25ノットだった風はヒートが進むごとに急激に吹き上がり、すぐに40〜45ノット超の暴風へと変貌した。
ラウンド1のヒート1では、世界女王ミカイリ・ソルが6平米のカイトでもオーバーパワーとなる強風の中で「Kiteloop Backroll(8.03点)」を決めて地元フランスのアンジェリー・ブイヨを下し、準々決勝へ直行した。
しかし敗者復活のラウンド2を勝ち上がったアンジェリー・ブイヨは、続く準々決勝でオランダのザーラ・フーゲンラードと激突すると本領を発揮。ザーラ・フーゲンラードが「Kiteloop Backroll」で8.43点(トータル18.40点)を叩き出したのに対し、アンジェリー・ブイヨは特大の「カイトループ・ボードオフ」で「9.00点」をマークし、トータル「21.26点」で前年度準女王を撃破した。
また、準々決勝の別ヒートでは不運なアクシデントも発生した。ハワイのカーリー・トーマはフランチェスカ・マイニとの対戦中、強烈なガストの中でカイトがクイックリリースされて漂流。水上バイクによる救助と機材回収を受けた結果、「ヒート中に外部の援助を受けた」としてルールに基づく失格となり、フランチェスカ・マイニが準決勝へ進出した。残る2枠は、7平米のカイトでオーバーパワーに耐えながら「ブギループ(Kiteloop Front Roll)」で8.37点を叩き出したナタリー・ランブレヒトと、ジャスティン・アヴリルを下したミカイリ・ソルが獲得した。

「あの『ブギループ』が私のヒートを決定づけてくれたわ。あれがなければかなり苦戦していたはずよ。7平米のカイトで少しオーバーパワー気味だったし、あれほど猛烈なスピードの中でどうやって着水できたのか自分でも分からないけれど、あの一本が勝利をもたらしてくれたわ。」

—ナタリー・ランブレヒト

迎えた女子準決勝ヒート1(アンジェリー・ブイヨ対ナタリー・ランブレヒト)、風速が45〜50ノット以上に達して危険水域に入ったため、レースディレクターはヒート途中で競技の打ち切りを宣言。残りのヒートは翌日曜日へと順延された。

2. 大会2日目:新旧キング対決と、ルカ・チェルーティ・ベイビー・シャークによる下克上
翌4月2日は早朝8時から競技が再開され、男子のラウンド1から決勝、および女子の準決勝・決勝までが一気に行われた。
この日、最も波乱万丈なスタートを切ったのが、King of the Air王者として新スポンサーCabrinhaのカイトで初戦に臨んだ17歳のロレンツォ・カサーティであった。ヒート前にビーチで「King of the Air優勝時のヘルメット」が一時行方不明になり10分間探し回るハプニングに見舞われると、序盤ヒートでは高さ10メートルの空中でクイックリリースが誤作動してカイトが外れるアクシデントが発生。ボードを蹴り出して足から着水し事なきを得たものの、薄氷を踏む立ち上がりとなった。

続くラウンド3では、会場を揺るがす名勝負とジャイアントキリングが相次いだ。
まずヒート5では、アンドレア・プリンチピ・ロレンツォ・カサーティと並ぶ「イタリア若手三銃士」の一角ジェレミー・ブーランドーと、序盤ラウンドで高さ21メートルのジャンプを記録していた南アフリカのルカ・チェルーティが激突。ジェレミー・ブーランドーは17メートル超のジャンプや「Contra Doobie(コントラ・ドゥビ)」で終盤までリードを奪ったものの、同じトリック・ファミリーを重複して飛んでしまう戦略ミスでスコアが頭打ちとなる。一方、約1点差で追うルカ・チェルーティは、風がわずかに落ちて水面がフラットになった最終トライで、ダブル・カイトループから高難度のブラインド着水(Double Kiteloop to Blind)を完璧にメイク。手持ちの最低スコア(3.73点)を一気に書き換え、土壇場の逆転劇でジェレミー・ブーランドーを下してベスト8入りを果たした。
さらに別ヒートでは、ブラジルの軽量級ライダー「ベイビー・シャーク」ことジョシュエ・サン・フェレイラが、直前のBAKLケープタウン大会覇者であるオランダの強豪コーハン・ファン・ダイクを撃破する大金星を挙げて準々決勝へ進出した。
そしてヒート6では、17歳の現KOTA王者ロレンツォ・カサーティと、5度の元世界王者で2度のKOTA制覇を誇るアーロン・ハドロウによる「新旧キング対決」が実現。アーロン・ハドロウは「メガループ・ボードオフ」や「コントラループ・ダブル・フロントロール」をクリーンに揃えてわずか0.8点差に詰め寄ると、最終トライでは空中でバックロール・カイトループを回しながらハンドル・パスを狙う「メガループKGB」に挑み、会場を大いに沸かせた(着水でクラッシュし、0.7〜0.8点の僅差でロレンツォ・カサーティが準々決勝へ進出)。

3. 男子準々決勝:オランダ勢対決の判定騒動と、リアム・ウェイリーの土壇場「8.40点」大逆転
ベスト8が出揃った男子準々決勝では、全4ヒートすべてで劇的なドラマが展開された。
ヒート1のオランダ勢対決(ジェイミー・オーバービーク対ヒール・フルーフト)では、ラウンド3で高さ20.8メートル・飛距離116メートル・滞空時間8.5秒の特大ジャンプを記録していたジェイミー・オーバービークがヒール・フルーフトと激突。終了直後にトリック・ファミリーのカウントを巡る抗議と再確認が入り、ライブスコア上の勝者が一時ヒール・フルーフトへ入れ替わる騒動となったが、ジャッジの再精査によって最終的にジェイミー・オーバービークの準決勝進出が確定した。
ヒート2では、地元フランスのエドガー・ウルリックが最終トライで高さのある「コントラ・ループ」を決めて土壇場で首位に浮上。追い詰められたリアム・ウェイリーは、自身の最終第7トライで逆転に「7.56点以上」が必要な絶体絶命の場面を迎えた。しかし、ここで吹いた強いブローを捉えたリアム・ウェイリーは、ロングラインながらカイトが真横にレベルするほどの「Double Kiteloop Backroll」をフルスピードで完璧に着水。審査員から「8.40点」を引き出し、ブザービーターでエドガー・ウルリックを逆転して準決勝へ駒を進めた。
ヒート3ではロレンツォ・カサーティが南アフリカのルカ・チェルーティを下し、ヒート4では今大会で飛距離232メートル・滞空時間18秒というSurfr.史上最長記録を樹立したアンドレア・プリンチピがブラジルのJosué “Baby Shark” Ferreiraを退けた。

大会の詳細結果を表示(ネタバレ注意)

「いやあ、自分が今どんな気持ちなのかまだ実感できないよ。レッドブルとアドレナリンのせいで、ここ1時間ずっと心臓が激しく脈打っているんだ。本当にクレイジーな道のりだった。正直なところ、ここ半年ほどは自分にプレッシャーをかけすぎて本当に苦しい時期を過ごしていて、すっかり燃え尽きていたんだ。先月もほとんど乗っていなかったし、ここへ来る直前に数回良い練習ができただけだった。だから今大会は何の期待もプレッシャーも背負わず、ただ楽しむことだけを考えてリラックスして臨んだら、すべてがうまくいった。本当に最高だよ。」

—リアム・ウェイリー

■ 男子準決勝・3位決定戦:5平米カイトの賭け、イタリア勢頂上決戦、そして13.4mからの落下事故
男子準決勝ヒート1(リアム・ウェイリー対ジェイミー・オーバービーク)では、ジェイミー・オーバービークが1本目に高さ19.1メートル・飛距離125メートルの「Megaloop Late Backroll Board-off」を放ち、ヒート中盤にはダブル・ループを狙って極小の「5平米(Ozone Enduro)」へサイズダウンする大胆な賭けに出た。しかし、経験豊富なリアム・ウェイリーは「Double Kite Loop Board Off」と「Doobie Double Loop(Double Kiteloop Double Front Roll)」で8.27点と8.13点を揃え、危なげなく決勝進出を決めた。
続く準決勝ヒート2は、「事実上の決勝戦」とも呼ばれたアンドレア・プリンチピとロレンツォ・カサーティのイタリア人ライバル対決となった。序盤はロレンツォ・カサーティが4回転の「Contra Loop Front Roll Board-off」を決めてリードを奪ったが、アンドレア・プリンチピはヒート途中でビーチへ戻って8平米へとサイズアップして再出撃。直後に吹いたガストを捉え、高さ15メートル・飛距離120メートル・滞空時間11.7秒の「Contra Loop Triple Frontroll Board-off to One-Footer」およびセカンドリフトを伴う「Megaloop Late Backroll Rewind」を炸裂させ、ロレンツォ・カサーティを逆転して決勝へと進んだ。
その後の3位決定戦(ミニファイナル:ジェイミー・オーバービーク対ロレンツォ・カサーティ)では、ジェイミー・オーバービークが高さ18.7メートルの「Contra Loop Triple Backroll Board-off」など3本を確実に揃えた一方、ロレンツォ・カサーティは高さ13.4メートルの空中でこの日2度目となるクイックリリースの誤作動に見舞われ、カイトの支えを失って真下へ落下する激しいクラッシュを喫した。ボードを蹴り出して大怪我は免れたものの、水上バイクの救助を受けたことで勝負ありとなり、ジェイミー・オーバービークが3位表彰台を獲得した。

■ 女子準決勝・決勝:ミカイリ・ソルが地元フランスのアンジェリー・ブイヨを抑え開幕戦制覇
前日の暴風中断から仕切り直しとなった女子準決勝では、ヒート1でアンジェリー・ブイヨが高さのある「Megaloop Late Backroll」を決めてナタリー・ランブレヒトを下し、ヒート2ではミカイリ・ソルがフランチェスカ・マイニを破って決勝へ進出した(3位決定戦ではナタリー・ランブレヒトがフランチェスカ・マイニを下して3位を獲得)。
女子グランドファイナル(ミカイリ・ソル対アンジェリー・ブイヨ)は、前日とは一転して風がやや弱まり、突風のタイミングを見極める戦術眼が問われる展開となった。地元の大声援を受けるアンジェリー・ブイヨは高さ12.9メートルの「Megaloop Late Backroll」を決めたものの、最終トライで狙ったダブル・ループは風速が足りずクラッシュ。対する18歳の世界女王ミカイリ・ソルは、片手でバーを引きながらボードを外す「メガループ・ボードオフ」など3つの異なるトリック・ファミリーを冷静かつ確実にまとめ上げ、前年のタリファ世界選手権に続くビッグエア連勝を飾った。

■ 男子グランドファイナル:カイト交換の妙を見せたリアム・ウェイリーが「9.37点」で王者を撃破
大会の最後を締めくくった男子グランドファイナル(リアム・ウェイリー対アンドレア・プリンチピ)は、前年6月のビッグエア世界選手権決勝と全く同じ顔合わせによる頂上決戦となった。
夕暮れが迫り、風がやや落ちてガスティになったコンディションの中で、2015年フリースタイル世界王者でもあるリアム・ウェイリーは自身の引き出しの多さを存分に発揮した。第1トライでいきなり「カンフー・ハンドルパス(カンフー・パス)」を決めて先制すると、続くトライでは風の隙間を縫って高さ13メートルの「Megaloop Late Backroll Board-off」を成功させ、8.40点と8.60点という2本のハイスコアを並べた。
さらにヒート後半、二人の「カイトサイズ選択」が明暗を決定づけた。風がわずかに落ちたと見たリアム・ウェイリーがビーチへ戻って8平米から「9平米」へとサイズアップしたのに対し、逆転を狙うアンドレア・プリンチピはダブル・ループ専用の「小サイズカイト」へとサイズダウンするギャンブルに出たのである。
そして迎えた最終第7トライ、9平米のパワーを得たリアム・ウェイリーは、ロングラインでカイトと身体が完全に水平になる驚異的な「Double Kite Loop Board Off」をクリーンに着水させ、この日最高得点となる「9.37点」を記録(ヒートトータルもこの日最高の「26.37点」に到達)。直後、小サイズカイトで挑んだアンドレア・プリンチピは十分な高さを得られないままダブル・ループを強行して激しいクラッシュに終わり、リアム・ウェイリーが前年のタリファ決勝の雪辱を果たして見事2023年ビッグエア開幕戦の頂点に立った。

「悔しい気持ちもあるけれど、全体的には良い気分だよ。結果は2位だった。大会を通じてずっと良いライディングができていただけに、決勝で良いブロー(突風)を掴み損ねてしまったのは少し胸がヒリヒリするけどね。それでも2位に入れたことには満足しているよ。」

—アンドレア・プリンチピ

【男子部門 最終結果(Men’s Division Final Results)】
1位:リアム・ウェイリー(スペイン)— 26.37 pts
2位:アンドレア・プリンチピ(イタリア)
3位:ジェイミー・オーバービーク(オランダ)
4位:ロレンツォ・カサーティ(イタリア)

【女子部門 最終結果(Women’s Division Final Results)】
1位:ミカイリ・ソル(ブラジル / アメリカ)
2位:アンジェリー・ブイヨ(フランス)
3位:ナタリー・ランブレヒト(スウェーデン)
4位:フランチェスカ・マイニ(イギリス)

検索用エイリアス: 2023 Lords of Tram GKA Big Air Kite World Cup, 2023LordsofTramGKABigAirKiteWorldCup

上部へスクロール