ケープタウン カイトビーチ(Kite Beach)

「夏の数ヶ月間すっかりフラットになってしまうヨーロッパの多くの国とは異なり、南アフリカには夏の間も十分なうねりがある」

— Steve ‘Spike’ Pike

概要

カイト・ビーチは、南アフリカ共和国・西ケープ州ケープタウンの中心部から北へ車で約20〜30分、テーブルベイ(Table Bay)の海岸線に沿ったブロウベルグストランド(Bloubergstrand)およびテーブルビュー(Table View)地区に位置するワールドクラスのカイトサーフィンスポットである。海越しに世界遺産テーブルマウンテン(Table Mountain)の雄大な姿を望む象徴的な景観を誇り、世界中のプロライダーや熱狂的なカイトボーダーが集結する「ビッグエアの聖地」として知られる。

世界最高峰のビッグエアコンテストであるRed Bull King of the Airは、2013年のケープタウンでの復活当初こそ北側のビッグ・ベイ(Big Bay)で開催されていたが、より強力な風とビッグジャンプに適した波のランプ(キッカー)を求め、2018年大会からここカイト・ビーチへとメイン会場を移した。また、ビーチ沿いを走るMarine Drive(マリン・ドライブ)を挟んだ向かい側にKFCの店舗があることから、ローカルや常連ライダーの間ではその前のメインピークが通称「KFC Beach」とも呼ばれている。

風のシーズンとコンディション

ベストシーズンは南半球の夏にあたる11月から3月で、特に12月から2月にかけてピークを迎える。この時期は北半球の冬と重なるため、ヨーロッパや北米をはじめとする世界各地からトップライダーが冬季のトレーニング拠点として長期滞在する。シーズン中は、南大西洋高気圧と内陸部の熱低気圧の気圧差によって生じる南東の貿易風「ケープ・ドクター(Cape Doctor)」が吹き荒れる。街の汚染物質や熱気を一掃することからその名がついたこの局地風は、カイト・ビーチに対して左からのクロスショア〜サイド・オンショアとして吹き込む。

風は午前中こそ穏やかであるものの、日中の気温上昇に伴って急速に勢いを増し、午後から夕方にかけては25〜35ノット、強い日には40ノットを超える暴風へと達する。2〜5日間連続で吹き続けた後に1〜2日休むというサイクルを繰り返すのが特徴で、日中のメイン時間帯におけるカイトサイズは5m〜9m(特に7m前後)が主力となる。一方、南半球の冬にあたる5月から8月は気圧配置が逆転し、北西の前線に伴うストームと巨大なスウェルが押し寄せるため、上級者向けのストームライディングやビッグウェーブのシーズンとなる。

ライディング環境と周辺エリア

Kite Beachがビッグエアの最高峰スポットとされる最大の理由は、クロスショアの猛烈な強風と、南大西洋から絶えず届くうねり(スウェル)の組み合わせにある。ライダーは海岸線と平行にスピードをつけながらアプローチし、綺麗に立ち上がる波のフェイスを天然のジャンプ台(キッカー)として利用することで、高さ20メートルを超えるハイジャンプや過激なメガループを繰り出すことができる。なお、大西洋を北上する冷たいベンゲラ海流の影響を受けるため、真夏であっても水温は13〜16℃前後と非常に冷たく、ライディングには4/3mmまたは5/3mmのフルスーツ(ウェットスーツ)が必須となる。

また、ブロウベルグの長い海岸線には南(風上)から北(風下)にかけて性質の異なるスポットが連なっている。最風上のSunset Beach(サンセットビーチ (ケープタウン))はややクロス・オフショア気味でガスティになるものの、重く巨大なキッカーが立つ上級者・プロ向けのエリアである。そのすぐ風下に位置するドルフィンビーチ(Dolphin Beach)は波と波の間の海面が比較的フラットになりやすく、Kite Beachへと続く人気ゾーンとなっている。さらに数キロ北(風下)へ下った旧大会会場のビッグ・ベイは、Kite Beachよりも風が5〜10ノットほど穏やかな日が多く、ウェーブ・ライディングやフリーライドにも適している。なお、午後のKite Beachは強烈な風と重いショア・ブレイク、激しい混雑が伴うため初心者には適しておらず、ビギナーやフラットウォーターでの練習にはケープタウンから北へ車で約1時間半のランゲバーン・ラグーン(Langebaan Lagoon)が推奨される。

集結するローカル&シーズナルライダー

Kite Beachの海面を特別なものにしているもうひとつの要素が、日常的に同じ海で乗っているライダーたちの層の厚さである。地元南アフリカ勢としては、圧倒的な滞空時間を誇るジョシュア・エマニュエルや、幼少期からこの海を知り尽くすオズワルド・スミスといった生粋のローカルプロたちがシーンを牽引している。

さらに11月から2月のハイシーズンには、世界中のトッププロが「シーズナルライダー(季節移住者)」としてブロウベルグ周辺に集結する。ケビン・ランゲレーをはじめ、アンドレア・プリンチピ、ロレンツォ・カサーティ、コーハン・ファン・ダイク、フランチェスカ・マイニといったビッグエア最前線を走るライダーたちが毎日のようにトレーニングを行っており、一般のライダーが世界最高峰のダブル・ループやボードオフをすぐ目の前で目撃し、同じ海面を共有できる稀有なスポットとなっている。

アクセスとローカルルール

ケープタウン国際空港や市内中心部からはレンタカーでのアクセスが最も一般的で、ビーチ沿いに無料駐車スペースが設けられている。公共交通機関を利用する場合は、市内から運行しているBRT(バス高速輸送システム)の「MyCiTi」バスでテーブルビューおよびブロウベルグエリアへ直接アクセスが可能である。

ハイシーズンの午後は世界トップレベルのプロライダーから一般の愛好家まで数百機のカイトがひしめき合うため、安全管理とローカルルールの徹底が不可欠となる。強風下での素早くコンパクトなランチング・ランディング作法はもちろん、航行ルール(スターボード・タック優先、および波に乗っているライダー優先)の厳守が求められる。特に、キッカーを使って大ジャンプやカイトのループを仕掛けるライダーが多いため、ジャンプに入るライダーの風下(着水スペース)を広く空けておく空間認識が重要である。また、治安面の注意点として、ビーチ沿いの駐車場(特にサンセットビーチ周辺など)では車上荒らしが発生することがあるため、車内の外から見える場所にギアや貴重品を残さないことが鉄則とされている。

周辺施設とシーズン末期の中古カイト市場

Kite Beachに面したMarine Drive沿いには、カイトサーファー向けのインフラが高度に集積している。High Five Kitesurf School、Cabrinha Kitesurfing、Open Ocean Africa、Watersports Warehouse、Suntraxといった専門店やスクール、各ブランドのギアレンタル・リペア施設が立ち並び、滞在中の機材トラブルにも即座に対応できる環境が整っている。また、道路沿いには海を眺めながら食事ができるカフェやレストラン(Doodles BeachfrontやCarlucci’sなど)、ビーチ目の前のDolphin Beach Hotelやカイトボーダー専用ゲストハウスのMystic Houseなど、長期滞在者に特化した施設が充実している。

さらにケープタウンならではのユニークな現象として、夏シーズンが終盤を迎える2月から3月頃にかけて、現地の中古カイト市場が活況を呈することが挙げられる。数ヶ月間滞在していたヨーロッパなどのシーズナルライダーや長期旅行者が、帰国便の手荷物超過料金を回避するためや新モデルへの入れ替えのために、現地で使い込んだギアを一斉に手放すためである。加えて、プロライダーや各メーカーのテストチームがシーズン中に使用した最新モデルのカイト(特に7m〜9mの強風用ビッグエアモデル)も現地ショップやオンラインのコミュニティに大量に放出されるため、シーズン終盤は良質なセカンドハンドギアが数多く出回る時期としても知られている。

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