「だから僕は『ブラジル流の駆け引き』を仕掛けようとしたんだ。ペドロがすべての波に乗ろうとしていると思ったからね。でも彼がアウトで待っていたから、『オーケー、彼が待つなら僕も駆け引きに乗ろう』と決めたんだ。そうしたら彼が近づいてきて、僕がブロックしようとしていると思ったらしく引き返していった。実際にはブロックするつもりはなかったんだけどね。おかげで最初のセット波を掴んでベストを尽くすことができたよ。父や家族がいつも言う通り、『リラックスして笑顔を忘れず、海に出て楽しめば、すべては自分の思い通りに転がってくる』んだ。そしてその通りにやり遂げたよ!」
概要
開催地とコンディション
舞台となったのは、ダフラ半島の先端に位置するウェストポイント・ホテル(West Point Hotel)前のポイント・ブレイク「フム・エル・ウエド(Foum El Oued)」である。大西洋最長クラスの美しいライトハンダーとして知られる名スポットだが、今大会は期間を通じて気まぐれな微風とうねりの変化に翻弄されるタフな展開となった。
風速10〜15ノット前後のクロス・オフショアの微風下で、一度波に乗ってインサイドまで滑り降りると風上へタックして戻ることができないため、選手たちは1本ライディングするたびにビーチへ上がり、ボードとカイトを抱えてポイントの先端まで数百メートルを全力疾走で駆け上がる「ベルトコンベア」のような過酷な持久戦を強いられた。
ランキング争いの絶対条件と優先権ルール
競技はディングル・エリミネーション方式で行われ、採点基準はストラップレス・フリースタイルを含まない「100% Pure Wave(10本の波のうち上位2本のスコア合算・20点満点)」が採用された。
なお、のちの2023年シーズンから導入される「風上ブイの回航とフラッグによる優先権システム」はこの2021年時点ではまだ存在しておらず、当時は「より風上(ピークの奥)に陣取った選手、あるいは先にうねりに乗って最初のターンを開始した選手が優先権を持つ」という従来ルールで争われていた。そのため、セットの波数が限られる微風下では、いかに相手より風上のポジションを奪って波を独占し、相手を牽制・ブロックするかという高度な心理戦(ブラジル勢が得意としたことから「ブラジル流の駆け引き」とも呼ばれた戦術)が勝敗の鍵を握った。
また、前戦デンマークの中止によりディスカード(最低成績1戦切り捨て)が消滅したことで、最終戦を迎えたタイトル獲得条件は極めて明確であった。
男子部門では、2020年カーボベルデと2021年ズルトを連勝していたジェームズ・カルーが圧倒的優位に立っており、「ラウンド5を突破して準々決勝(ベスト8)に進出した瞬間、他選手の順位に関係なく年間王者が確定」という状況にあった。もしジェームズ・カルーがラウンド5で敗退した場合のみ、ペドロ・マトス、アイルトン・コッツォリーノ、マチュ・ロペスの3名に「優勝すれば逆転で年間王者」という扉が開かれる計算だった。
女子部門でも、ランキング首位のペリ・ロバーツは「準々決勝を突破して準決勝(ベスト4)に進出すれば自力で年間女王が確定」という王手をかけており、それをカプシン・デラノワ、シャルロット・カルペンティエ、ヨハンナ・カタリーナ・エディンの3名が追う構図となっていた。
ヒートラダーのいたずらと名勝負
ラウンド5の残酷なカードとジェームズ・カルーの王座戴冠
大会4日目、ついに波と風が整い始めた男子ラウンド5で、トーナメント表(ヒートラダー)は残酷なカードを実現させた。逆転タイトルの可能性をわずかに残していたカーボベルデ出身の親友同士、アイルトン・コッツォリーノとマチュ・ロペスがヒート4で直接激突したのである。「カーボベルデの2匹のサメ」と称された元世界王者同士の対決は、アイルトン・コッツォリーノが8.83点と7.30点を叩き出して勝利し、マチュ・ロペスは準々決勝を前に姿を消した。
そして直後のヒート5に、王手をかけたジェームズ・カルーが登場した。対戦相手は、普段は誰よりも物静かだが波に乗るとロックンロールのように叫びながら攻めるレユニオン島の若手シャーリー・マルタン。重圧がかかる一戦だったが、ジェームズ・カルーは7.50点と7.63点(計15.13点)を冷静に揃えてシャーリー・マルタンを下した。この瞬間、ジェームズ・カルーの準々決勝進出と「2021年GKA Kite-Surfワールドチャンピオン」が確定。実況のジョー・シアストゥラはあらかじめ冷やしておいたビールを手に放送ブースから砂浜へと駆け下り、悲願の初タイトルを手にした新王者に乾杯を捧げた。
「ああ、このタイトルにずっと飢えていたぜ。この瞬間をずっと頭に描き、この波に乗ってチャンピオンになる光景をイメージし続けてきた。その姿を思い描き、信じ抜くことができれば、必ず現実にできると心から信じている。そしてついにそれを実現させたんだ。これでオレは世界チャンピオンだ。ここからは2連覇、3、4、5連覇とどこまでも狙っていくぜ。いこうぜ!」
—ジェームズ・カルー
女子準々決勝の直接対決:ペリ・ロバーツの涙
同じ日の午後、女子準々決勝でもタイトルの行方を懸けた直接対決が組まれた。その前のラウンド4で、フランスのシャルロット・カルペンティエが2019年世界女王カルラ・エレーラ・オリアを4.30点対3.70点という極限のロースコア戦の末にわずか0.6点差で撃破。勢いに乗るシャルロット・カルペンティエが準々決勝で待ち構えていた相手こそ、勝てばその場で年間女王となるペリ・ロバーツだった。
もしペリ・ロバーツがここで敗れれば、シャルロット・カルペンティエやカプシン・デラノワに逆転タイトルのチャンスが転がり込む運命のヒート。10〜12ノットの微風という難しいコンディションの中、ペリ・ロバーツは力強いボトムターンからスプレーを飛ばしてリードを死守し、見事準々決勝を突破。ジェームズ・カルーに続き、オーストラリア勢による男女アベックでの2021年ワールドタイトル制覇を成し遂げた。ヒート直後、放送ブースに招かれたペリ・ロバーツは大粒の涙を流しながら喜びを語った。
「今は言葉すら出てこないわ。これは私がずっと夢見てきたことで、ついにその瞬間が訪れたなんて信じられない。ずっとこのことだけを考え、感じてきたの。本当に波乱万丈な道のりだったから、ただただ信じられないわ。」
—ペリ・ロバーツ
準決勝の死闘:王者対決とブラジル勢対決
年間王者が確定したことで、残る焦点は「誰がダフラのイベントタイトルを獲るか」へと移った。
男子準決勝第1ヒートは、ペドロ・マトスとセバスチャン・リベイロによるブラジル勢対決。序盤はセバスチャン・リベイロがリードしたものの、ペドロ・マトスが後半に8点台後半のハイスコアを叩き出して逆転し、ズルト大会に続く2大会連続のファイナル進出を決めた。
続く準決勝第2ヒートでは、新世界王者となったばかりのジェームズ・カルーと、タイトル防衛は逃したものの「最低でも1勝」に燃えるアイルトン・コッツォリーノが激突した。重圧から解放された2人の親友による真っ向勝負は、アイルトン・コッツォリーノが8.23点のビッグウェーブを掴んでリードを構築。ジェームズ・カルーは終了間際にチューブを狙って逆転を試みたものの波に捕まり、アイルトン・コッツォリーノが決勝への切符をもぎ取った。
大会の詳細結果を表示(ネタバレ注意)
最終日、男子3位決定戦ではセバスチャン・リベイロとジェームズ・カルーが対戦。セバスチャン・リベイロが序盤からフローのある美しいサーフスタイルでハイスコアを並べ、ジェームズ・カルーは最終波で逆転に必要な8.94点にわずかに届かない8.50点をマークするにとどまり、セバスチャン・リベイロが3位表彰台を獲得した。
そして迎えた男子グランドファイナルは、アイルトン・コッツォリーノとペドロ・マトスによる「ズルト準決勝の再戦」となった。前戦ズルトでペドロ・マトスに敗れていたアイルトン・コッツォリーノは、甥のヘンドリック・ロペスやチームメイトのヤリス・デロウモ、フランチェスコ・カプッツォらのサポートを受けて何度もビーチを駆け上がった。さらにアウトでの波待ちでは、風上のポジションから相手を牽制するペドロ・マトスに対し、あえて自らも間合いを詰める「ブラジル流の優先権の駆け引き」を仕掛けて心理戦を制し、ペドロ・マトスがブロックを警戒して引き返した隙に最初のセット波を捕捉。7.40点、さらに終了間際にもダメ押しのビッグスコアを重ね、ペドロ・マトスの最終波での追い上げを退けて見事リベンジ優勝を果たした。
一方、女子準決勝ではブラジルのマルセラ・ヴィットがヨハンナ・カタリーナ・エディンを下し、カプシン・デラノワが新女王ペリ・ロバーツを大会最高ヒートスコアで破って決勝へ進出した。
午後6時を回り、夕日が水平線に沈む中でカプシン・デラノワとマルセラ・ヴィットによる女子グランドファイナルがスタート。背景の海辺を馬が駆け抜ける幻想的なピンク色の夕焼けの中で数本の波が乗られたものの、直後に風が完全に止み、会場は一寸先も見えない漆黒の闇に包まれた。これによりヒート続行不可能と判断され、女子決勝はカプシン・デラノワとマルセラ・ヴィットの2人が「同率1位(共同優勝)」、3位決定戦を控えていたペリ・ロバーツとヨハンナ・カタリーナ・エディンも「同率3位」を分け合う形で2021年シーズンの幕を閉じた。
【男子部門(Men’s Division)】
1位:アイルトン・コッツォリーノ(イタリア / カーボベルデ)
2位:ペドロ・マトス(ブラジル)
3位:セバスチャン・リベイロ(ブラジル)
4位:ジェームズ・カルー(オーストラリア)※2021年年間ワールドチャンピオン確定
【女子部門(Women’s Division)】
1位:カプシン・デラノワ(フランス) / マルセラ・ヴィット(ブラジル) ※日没により同率優勝
3位:ペリ・ロバーツ(オーストラリア) / ヨハンナ・カタリーナ・エディン(スウェーデン) ※同率3位(ペリ・ロバーツが2021年年間ワールドチャンピオン確定)
【2021年 GKA Kite-Surf 年間最終ランキング トップ5】
・男子:1位 ジェームズ・カルー / 2位 アイルトン・コッツォリーノ / 3位 ペドロ・マトス / 4位 マチュ・ロペス / 5位リース・マイヤーズコウ
・女子:1位 ペリ・ロバーツ / 2位 カプシン・デラノワ / 3位 ヨハンナ・カタリーナ・エディン / 4位 シャルロット・カルペンティエ / 5位マルセラ・ヴィット
検索用エイリアス: 2021 GKA Kite-Surf World Cup Morocco, 2021GKAKite-SurfWorldCupMorocco

