「自分でも過去最高と言えるくらい良い『319』が決まって、9.30点を獲ることができたよ。着水した直後に思わずこんなポーズが出たんだけど、なぜだか分からない、無意識に体が動いたんだ。でも最高に面白かったよ!」
概要
2022年3月2日から6日にかけて、コロンビア北部のカリブ海沿岸に位置するサリナス・デル・レイ(Salinas del Rey)で開催された『2022 GKA Freestyle World Cup Colombia』。パンデミックによる変則シーズンを乗り越え、3年ぶりに本格的なツアースケジュールでの再開を迎えた2022年GKAフリースタイル部門の開幕戦であり、コロンビア史上初めて開催されたGKAワールドツアー公式戦である。地元コロンビアの大観衆がビーチを埋め尽くす熱狂の中、新世代の台頭やディフェンディングチャンピオンの早期敗退など、シーズン幕開けから激しい主導権争いが繰り広げられた。
開催地とコンディション
初開催の舞台となったサリナス・デル・レイは、バランキージャとカルタヘナの中間にある小さな漁村サンタ・ベロニカ近郊に位置し、南米屈指の強風スポットとして急速に注目を集めていたロケーションである。
大会期間中は、午前中から安定した風が吹き始め、午後には25〜28ノット(最大30ノット近く)へと一気に吹き上がるクロスショアの貿易風が連日炸裂した。インサイドにはフラットな海面が広がり、アウトサイドには巨大なエアリアルを打ち上げるのに理想的な天然の波(キッカー)が形成されるという、パワーと高さを兼ね備えたニュースクール・フリースタイルにうってつけの舞台が整った。
なお、今大会では現地からのライブストリーミング中継は行われず、MCのジョー・シアストゥラが現地でパスポートの盗難に遭い24時間不眠で再発行に奔走するといった舞台裏のハプニングもあったものの、連日公開されたハイライト映像を通じてカリブ海の熱気が世界中へと発信された。
フォーマットと次世代ライダーの台頭
競技は7トライ中上位4本のスコア合算(40点満点)による「100% Pure Freestyle」フォーマットで実施された。
開幕戦には前年度に初の年間王者に輝いたフランスのアーター・ギユベールと、4連覇を達成したブラジルのミカイリ・ソルのディフェンディングチャンピオン両名を筆頭に、世界各国のトップライダーが集結。さらに2019年世界王者ヴァレンティン・ロドリゲスや、急成長を遂げるファン・ロドリゲスをはじめとする地元コロンビア勢が母国初開催に並々ならぬ闘志を燃やして参戦した。
また、今大会で大きな話題を呼んだのが、わずか11歳のブラジル人ライダーPierfrancesco Rizzello(ピエルフランチェスコ・リツェッロ)と、12歳のドイツ人ライダーFinn Flügel(フィン・フリューゲル)という超新星たちの登場であった。2人は強風の中で大人顔負けの果敢な「バックサイド313」や「バックモブ」に挑み、フリースタイル界のさらなる低年齢化と次世代の台頭を強く印象づけた。
ハイライト・名勝負
序盤ラウンドのコロンビア対決と、準々決勝での前年度王者アーター・ギユベールの敗退
大会序盤のラウンド3(3人制ヒート・1位が準々決勝へ直行)では、早くも2019年世界王者ヴァレンティン・ロドリゲスとファン・ロドリゲスによる地元コロンビア勢対決が実現した。強風下でヴァレンティン・ロドリゲスが複数のクラッシュに苦しむ一方、大会前にカボ・デ・ラ・ベラで1ヶ月間の猛特訓を積んできたファン・ロドリゲスが安定したカイトコントロールで2点弱の差をつけて勝利し、準々決勝への一番乗りを決めた(敗れたヴァレンティン・ロドリゲスもラウンド4を勝ち上がって準々決勝へ進出した)。
「トリックを仕掛けようとアプローチしている最中にも、ビーチのみんなが自分に声援を送ってくれているのが聞こえてくるんだ。本当に最高の気分だよ。ここコロンビアでの初開催を実現してくれたすべての人たちを心から誇りに思う。大会前にカボ・デ・ラ・ベラで30日以上にわたって毎日3セッションの猛練習を積んできたから、こうして結果を残せて本当に幸せだよ。」
—ファン・ロドリゲス
風速25〜28ノットに達し、男子選手が9平米のカイトで空高く舞い上がった大会3日目の準々決勝(ラウンド5・全4ヒート)では、各ヒートで特大のエアリアルが飛び交った。
準々決勝ヒート1では、スイスのマクシム・シャブローがスタイリッシュな「Seatbelt Mobe 5(7.33点)」を決めてトータル30.43点で1位通過を果たし、同組のドミニカ勢ルイス・アルベルト・クルズもジャッジのサム・メディスキーが「この日最大のトリック」と舌を巻く超高高度の「スリムチャンス9」を披露。続くヒートでは、ホームアドバンテージに乗る地元のファン・ロドリゲスがブラジルのマノエル・ソアレスと共に準決勝へ進出し、別ヒートからは4度の世界王者カルロス・マリオも順当に準決勝へ駒を進めた。
そして最大の波乱が起きたのが、準々決勝の最終ヒートであった。2021年世界王者アーター・ギユベール、イタリアのジャンマリア・コッコルート、そして2019年世界王者ヴァレンティン・ロドリゲスが同組で激突。まずヴァレンティン・ロドリゲスがクリーンな「フロントサイド 319」を決めて「9.00点」を叩き出すと、直後にジャンマリア・コッコルートがアウトサイドのキッカーを利用して大会最高シングルスコアとなる「9.30点のフロントサイド 319」を完璧に着地させて応戦した。9点台を揃えたジャンマリア・コッコルートとヴァレンティン・ロドリゲスの2人が上位2枠を独占した結果、ディフェンディングチャンピオンのアーター・ギユベールは準々決勝で姿を消す番狂わせとなった。
女子準決勝の激闘と「ブラジル勢3名 対リタ・アルナウス」の決勝構図
一方の女子部門では、7〜9平米のカイトで挑む強風下で、準決勝ヒート1に登場したスペインのリタ・アルナウスが、最終トリックの「Sモブ」をブザービートで決めてスアミ・キャヴァッロとブルーナ・カジヤを逆転し1位通過(2位通過はブルーナ・カジヤ)。準決勝ヒート2ではブラジルのエステファニア・ローザと女王ミカイリ・ソルがスペインのクラウディア・レオンを下して勝ち上がり、決勝は「ブラジル勢3名(ミカイリ・ソル、ブルーナ・カジヤ、エステファニア・ローザ)にスペインのリタ・アルナウスが単身立ち向かう3対1の包囲網」となった。
大会の詳細結果を表示(ネタバレ注意)
「正直なところ、自分がいくつのワールドタイトルを獲りたいかという具体的な目標数は特に決めていないの。ジセラ・プリドーが11回タイトルを獲っていて、私がまだ4回だけだということは知っているけれど、勝つたびにもっと上手くなりたい、前に進み続けたい、そしてこのスポーツのレベルを押し上げたいというモチベーションが湧いてくるの。だから私にとって勝利とは、基本的にステージを一段引き上げるためのステップなのよ。」
—ミカイリ・ソル
最終日に行われた女子グランドファイナルは、中盤まで予断を許さない大接戦となった。
序盤にミカイリ・ソルがクラッシュを喫する一方、6平米のカイトを選択してノーミスを貫いたベテランのブルーナ・カジヤが「Sモブ」から教科書通りの「バックモブ」を揃えてヒート折り返し時点で首位に立ち、リタ・アルナウスも3本目に極めてクリーンな「スリムチャンス」を決めてミカイリ・ソルの上を行く2位につけた。
しかし後半に入ると、4連覇女王ミカイリ・ソルが本来の爆発力を発揮。圧倒的なエッジングとポップの高さから「スリムチャンス5」「315」「ヒンターバーガー・モブ5」、そして6本目に逆転の決定打となる「バックサイド313(7.20点)」を叩き込み、終わってみればトータル「31.76点」で逆転優勝を飾った(2位は最後まで1本もクラッシュせず28.93点をまとめたブルーナ・カジヤ、3位は終盤のミスが響いたものの24.97点で表彰台を守ったリタ・アルナウス、4位は19.67点のエステファニア・ローザ)。
続く男子準決勝では、ヒート1でマノエル・ソアレスとジャンマリア・コッコルートがスイスのマクシム・シャブロー(3位敗退)を下し、ヒート2ではカルロス・マリオと、29.70点(ダブル・ヒンターバーガー・モブ5、317、スリムチャンス7)を叩き出した地元コロンビアのファン・ロドリゲスがヴァレンティン・ロドリゲスらを破って決勝へ進出した。
迎えた男子グランドファイナル(マノエル・ソアレス、カルロス・マリオ、ファン・ロドリゲス、ジャンマリア・コッコルート)で誰よりも強烈なインパクトを残したのは、イタリアのジャンマリア・コッコルートであった。オープニングから決勝最高シングルスコアとなる「9.20点のスリムチャンス7」を炸裂させ、まるでフリーライディングのような超高高度とパワーで会場を圧倒した。しかし、極限の攻めを貫いた代償として後半のクラッシュが重なり、規定の4本目となるスコアを最後まで揃えることができず、3本のみの合算「26.51点」で4位に終わった。とはいえ、成功した3本だけの平均スコアは驚異の「1本あたり8.84点(26.51÷3)」に達しており、仮に4本目に4点台(3.64点以上)の基礎トリックを1本でもメイクしていれば他を突き放して優勝していたという事実は、ライバルたちに強烈な脅威を抱かせた(そしてその爆発力は、この年の最終戦タイバでの歴史的な逆転ワールドタイトル戴冠へと結実することになる)。
ジャンマリア・コッコルートが4本目を逃したことで、優勝争いは4本をきっちり揃えたマノエル・ソアレス、カルロス・マリオ、そして大歓声を背に受ける地元ファン・ロドリゲスの3名による息詰まるデッドヒートとなった。ファン・ロドリゲスは流れるようなライディングで29.07点(4本平均7.27点)をマークし、最終トライでカルロス・マリオ逆転に必要な8.80点には届かなかったものの、母国開催で見事3位表彰台を獲得。復活の王者カルロス・マリオも、最終トリックで特大の「バックサイド317(7.90点)」を決めて29.77点(4本平均7.44点)まで伸ばし2位に食い込んだ。
そして頂点に立ったのは、クンブコでカルロス・マリオの背中を追って育った「Piçarrinha(ピサリーニャ)」ことマノエル・ソアレスであった。自身初のGKAファイナルの舞台で、「スリムチャンス7」「フロントサイド 319」「バックサイド317」「ハートアタック5」という高難度の4本すべてを抜群のカイトコントロールとクリーンな着水で揃え、トータル「30.14点(4本平均7.54点)」をマーク。キャリア初となるGKAワールドツアー優勝をコロンビアの地で成し遂げた。
【男子部門(Men’s Division)】
1位:マノエル・ソアレス(ブラジル)— 30.14 pts(4本計 / 1本平均 7.54 pts)
2位:カルロス・マリオ(ブラジル)— 29.77 pts(4本計 / 1本平均 7.44 pts)
3位:ファン・ロドリゲス(コロンビア)— 29.07 pts(4本計 / 1本平均 7.27 pts)
4位:ジャンマリア・コッコルート(イタリア)— 26.51 pts(3本計・4本目不成立 / 成功3本の平均 8.84 pts・最高9.20 pts)
【女子部門(Women’s Division)】
1位:ミカイリ・ソル(ブラジル)— 31.76 pts(4本計 / 1本平均 7.94 pts)
2位:ブルーナ・カジヤ(ブラジル)— 28.93 pts(4本計 / 1本平均 7.23 pts)
3位:リタ・アルナウス(スペイン)— 24.97 pts(4本計 / 1本平均 6.24 pts)
4位:エステファニア・ローザ(ブラジル)— 19.67 pts(4本計 / 1本平均 4.92 pts)
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