概要
「風が吹かなければ勝負にならない」——そんな大自然を相手にするスポーツにおいて、2019年というシーズンはあまりにも残酷で、劇的で、そして美しかった。
これまで別々の道を歩んでいた「フリースタイル」と「カイトサーフ(ウェーブ&ストラップレス)」の2大ツアーが、GKAというひとつの旗の下に集結した。しかし、ファンが目撃したのは平和的な統合などではない。絶対王者のプライド、予想を裏切る大自然の暴力、そして次々と現れる規格外の異端児たちが激突した、血湧き肉躍る大河ドラマである。
前半戦:大自然の猛威と新星たちの胎動
2019 カーボベルデ
ツアーの産声は、むき出しの浅い岩礁に完璧な波が巻くポンタ・プレタで上がった。開幕戦からいきなり絶対王者アイルトン・コッツォリーノがジェームズ・カルーに敗れる波乱。だがアイルトンは敗者復活から決勝へ這い上がる。そこで待ち受けていた地元を知り尽くしたレジェンド、ミトゥ・モンテイロが単一波で9.2の特大バレルを抜けてカーボベルデの威信を死守した。「ここは今のサーフィン界におけるブラジルのような場所だ。猛者たちが互いに刺激し合って育つ」と実況が語る凄まじい環境の中、女子はムーナ・ホワイトが優勝。そしてイネス・コレイアが敗者復活戦(ダブル・エリミネーション)から怒涛の大逆転を見せ、見事2位に食い込む執念を見せた。
2019 ルカート
大会23年の歴史で初となる異常な「南風の暴風雨」が襲来。「アンフックした瞬間に水飛沫の向こうへ消える」地獄の海で、絶対王者カルロス・マリオは限界の勝利をもぎ取る。女子はイタリアのフランチェスカ・バニョーリが無敗の女王ミカイリ・ソルを破る大番狂わせを起こした。
2019 グラン・カナリア & 2019 ズルト
前戦の嵐から一転、今度は「無風」の絶望が選手を嘲笑う。グラン・カナリアでは気まぐれな風に翻弄され、男子フリースタイルは無情にも未完のまま「ベスト8全員が共同1位」という異常事態で終了。続く北海のズルトでは、女子Kite-Surfのトップ3が全員欠場という波乱の展開に。「トップ3が不在なことで逆に存在感が際立っている」と実況が漏らす中、その千載一遇の隙を突き、スペインのカルラ・エレーラ・オリアが圧倒的な力で完全制覇を果たした。
2019 タリファ
両ディシプリンが同時開催されたメガイベントだったが、熱波による完全無風地獄に見舞われる。Kite-Surf部門ではアイルトンら重量級が次々と沈むなか、この最悪の微風を笑ったのがスペインの「ウミヘビ」キコ・ロイグだ。「地元のバレンシアもいつも無風だから完璧だ」と語る彼は見事にトップ8へ躍り出た。一方、辛うじて一部進行したフリースタイル部門では、のちにカイト界を牽引することになる若きコーハン・ファン・ダイク(Cohan van Dijk)が、強豪ひしめくヒートでプロの厳しい洗礼を受けていた。
2019 フェルテベントゥラ
一転して35ノット超の突風が吹き荒れる「洗濯機」のような大荒れの海。女王ミカイリが耳を負傷し流血する凄絶なサバイバルのなか、アデウリ・コルニエルが圧倒的なパワーで暴風をねじ伏せ初優勝をもぎ取る。一方、ツインチップとストラップレスが融合したビッグエア戦では、南アフリカの鬼才オズワルド・スミス(Ozzy)が「誰もが自分のフレーバーを出せるぜ」と豪語し、見事にチームを優勝へと導く大暴れを見せた。
ミッドシーズン:タイトルレースの行方
全10戦の折り返しを過ぎ、最終戦を前にタイトルレースは極限の緊張状態に突入していた。
- Kite-Surf部門: 男子は絶対王者アイルトン・コッツォリーノが首位を走るも、それをミトゥ・モンテイロとオーストラリアの野獣ジェームズ・カルーが猛追。女子はトップ勢のスポット参戦や欠場が相次ぐ中、全戦に出場し驚異的な安定感を誇るカルラ・エレーラ・オリアが独走状態に入っていた。
- フリースタイル部門: 男子はカルロス・マリオとアデウリ・コルニエルの一騎打ちかと思われたが、マクシム・シャブローや17歳のヴァレンティン・ロドリゲスが急速にポイントを荒稼ぎし、四つ巴の大混戦に。対するアデウリは「俺は楽しむためにここに来た。今年チャンピオンになれなくても、次は俺がなる。もっと強くなるからだ。だから何も恐れていない」と、プレッシャーを微塵も感じさせない堂々たる自信を覗かせていた。女子は絶対女王ミカイリ・ソルが首位を守るも、怪我から復活したブルーナ・カジヤや新星たちがその牙城を脅かしていた。
後半戦:王者の意地と規格外の異端児たち
2019 モーリシャス
史上最多90名超がエントリーした大会は、浅く鋭いリーフが牙を剥く死の海「ベルオンブル」での流血戦となった。オランダのヤルー・ランゲレーが重度のヘルニアから復帰し映画のような優勝を果たす。男子Kite-Surfでは、ジェームズ・カルーが悲願の初優勝を飾り「これでオレは世界チャンピオンになった。2連覇、3、4、5連覇と狙っていくぜ。いこうぜ!」と吠えた。
そして一番の狂気はOzzyだった。ウエーブ部門で大本命ミトゥを破るジャイアントキリングを起こした直後、空き枠が出たフリースタイルに急遽エントリー。KOTA(Red Bull King of the Air)の本場南アフリカ仕込みの豪快なエアーを武器に、本職のフリースタイルプロたちをなぎ倒し、見事ベスト8まで上り詰めるという規格外の才能で世界を唖然とさせた。
2019 ダフラ
レジェンドたちの魂が激突したダフラ。フリースタイル部門では2014年世界王者のクリストフ・タックが突如シーンに復帰し、マキシムら現役トップを破ってベスト4に食い込む大活躍を見せる。その一方で悲劇も起きた。絶対王者マリオが「スリム7」の着地で激しくクラッシュし戦線離脱。この隙を突いた17歳のヴァレンティンが初優勝を果たす。
Kite-Surf女子ではワイルドカードの英国レジェンド、カースティ・ジョーンズが突如現れて優勝をさらい、「とてもエモーショナルだわ。私もフリースタイルを練習したくなっちゃった」と笑顔を見せた。
2019 プレア
毎日ヘアドライヤーのように強風が吹く天国ゲレンデ。地元フランス育ちのカミーユ・デラノワが王者アイルトンを「わずか1.57点差」まで追い詰める死闘を展開。そして世界を最も驚愕させたのが15歳のミカイリ・ソルだ。わずか2週間のストラップレス練習でKite-Surf部門に突如参戦すると、初日から9点台を連発して完全優勝。「二刀流」の衝撃を与えた。
またこの地で、貧困のタリファから這い上がってきたカルラ・エレーラ・オリアが年間女王を確定させ、「波が何なのかさえ知らなかった彼女が、自らをプッシュし、今やこの過酷なスポーツの先駆者となった」と実況がその偉業を称えた。
2019 クンブコ
フリースタイル部門の最終戦。地元の英雄であり絶対王者のカルロス・マリオは、ダフラでの怪我により無念の欠場。ビーチではマリオの兄弟、故カルロス・マドセンの追悼式が行われ涙に包まれていた。
その悲しみを振り払うかのように会場を沸かせたのが、地元ラグーンで育った11歳の神童ダヴィ・リベイロ(Davi Ribeiro)だった。世界のトッププロを相手に全く物怖じせず、完璧な「ヒンターバーガー5」を決めて勝ち進み、クンブコの未来を世界に示した。
しかし女子決勝では、一般サーファーの乱入でブルーナ・カジヤの膝が深く切り裂かれ、救助に向かったミカイリがパニックに陥るという凄惨な事故も発生し、波乱のなかで大会はクライマックスを迎えた。
年間チャンピオンを懸けたラストトリック(詳細結果・ネタバレ注意)
クンブコでの男子フリースタイル最終決戦。アデウリ・コルニエルと、彼を猛追してきた17歳のヴァレンティン・ロドリゲスによる、文字通り「この決勝で上位に立った方が年間王者」という最後の一騎打ち。
アデウリが9.73という驚異のスコアで極限まで追い詰めるなか、ヴァレンティンは残された最後の1アテンプトにすべてを懸けた。放たれた完璧な「ハートアタック7」。スコアボードに「9.63」が点灯し、17歳の新王者が誕生した瞬間だった。敗れたアデウリが真っ先に親友を強く抱きしめて祝福した美しいシーンとともに、激動の2019年シーズンは幕を閉じた。
2019 Kite-Surf 年間最終ランキングトップ3
男子
- アイルトン・コッツォリーノ(イタリア / カーボベルデ)
- ミトゥ・モンテイロ(カーボベルデ)
- ジェームズ・カルー(オーストラリア)
女子
- カルラ・エレラ・オリア(スペイン)
- シャルロット・カルペンティエ(フランス)
- ヨハンナ・カタリーナ・エディン(スウェーデン)
2019 フリースタイル 年間最終ランキングトップ3
男子
- Valentin Rodriguez(コロンビア)
- アデウリ・コルニエル(ドミニカ共和国)
- リアム・ウェイリー(スペイン)
女子
- ミカイリ・ソル(ブラジル)
- ブルーナ・カジヤ(ブラジル)
- ピッパ・ヴァン・イアーセル(オランダ)
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